第44話 会話

「いや、今は必要だ。アルデンテス対策として持っててくれ」

「? 分かった」

 どうにも洞窟のようなギルのアジトは肌寒く、城では暑かったのが嘘のように布を纏うとちょうどいいのだ。返してくれと言われなくて良かった。

「でも、別にここに来る必要は無かったよね?」

「ああ、だが、恩を返せってチャスチャがうるさくてさ。チャスチャはあのおじいちゃんね」

「なる程」

 次第に現状が噛み砕けてくる。

 シンは味方。ユリは気を失い。アルデンテスは変貌した。

 皆で今はアルデンテスの暴走を止めねばなるまい。

 仲間たちを気絶させた次は城を落とすかもしれない。

「アルデンテスって奴はどうにも読めなかったがあの見た目には俺っちも覚えがある」

「本当に?」

「ああ……」

 シンは語りだした。アルデンテスの変わった見た目、その主を。



「……アイツは俺っちたちの祖先」

 それが沈黙を破ったシンの言葉だった。

「いくら悪魔と言えど寿命はある。そのうえヒトと同じく少しずつだが弱っていく。そしてその中でもアルデンテスは立派な祖先として考えられている存在だった」

「……うん」

「そいつは最初に力を目覚めさせた。いや作り出したかな?」

「力?」

「そうだ。見ただろう? 俺っちの消える力。イライの○✕。それらはその祖先の力の派生だ。そして、目の当たりにしただろう? あの変化、全てはアイツの力の一部だった」

「見てたの?」

「ああ、俺っちの目はそれだけ強い」

 まあ、目の強さはシンの仕事には必要そうだからおかしな話では無いだろう。

「そいつは飽き性だった。だが、夢を持ち合わせていた」

「夢? それは?」

「王、世界の支配者」

「王!?」

「ああ、しかし、自分ではなれない。そう察した奴は王を探す旅へ出たそれ以来の音沙汰は無く死んだものと思われていたが」

「見た目が似てるの?」

「ああ、いや、似てるなんてものじゃない。あれはそれそのものだ。伝承の中だけのものだと思われた存在の力だけでなく本人まで居たなんて……」

「ちょっと待って! じゃあ何でアルデンテスはこんなところに居るの? よっぽど力の強い悪魔たちのが王には持ってこいじゃない? それに私にアイテム渡す意味も分かんないし」

「……! 俺っちもそう思ったが、それならきっと違いそうだ」

「どういうこと?」

「きっとアイテムを渡したのはローズちゃんに執着していたからだ」

「何で?」

「それは、王の器だったから」

「私が?」

「そうでもなきゃわざわざここにいる意味も無いと言えば……」

「辻褄が合う…………ウッ! アッ! アー!」

「大丈夫か?」

「アーー! アーーーーー! …………うん……なんとか……」

「これは……!」

「……知ってるの?」

「ああ、生きているものに蘇生術を使えばそうなる。そして、これは誰かがローズちゃんが死んだと勘違いして生き返らせようとしているんだ」

「それはつまり」

「ああ、アルデンテスがローズちゃんが生きていることに気づいた」



「俺っちが様子を見てくる。だからローズちゃんはここでおとなしくしてて」

 前を思い出す。過去を思い出す。しかし、ここで自分が動いてしまっては足手まといでしかない。

「お願い」

 シンは頷くとドロンと姿を消した。

 1人。その時間は他と比べるにはあまりに長く不安、苦しみ、などなどの感情と向き合わなければならない。

 しかし、それらはもう怖くない。

 眠っているだけでユリもいるのだから。



「生きている? 一体どういう事だ? あのナメクジはユリを返すために来た悪魔だろう。俺がまさか何かを見逃したのか?」

 さっきから順調順調。

 独り言がやけにうるさいのがアルデンテスの弱点か。

 しかし、ここまで分かっているのは来る前にも分かっていた。

 が直接聞く訳にもいかない。

 ここでバレてしまっては倒れているみんなにも申し訳がない。

「……くそう! 探すかあの悪魔を……」

 まあ、術の使用者と分かれば十分である。今は安全な内に引くべきだ。

 一歩ニ歩三歩目にして、

「パキッ」と足元で枝が折れた。

「……いや、知っている者に聞けばいい」

 アルデンテスは口角を上げた。

 そのままアルデンテスは真っ直ぐ歩くとトンとシンを押した。

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