第45話 バラす

「気づいていたのか?」

 姿は見えていないはずだが触られてしまえば隠れている意味は無い。

 シンは姿を現し黒髪へ問う。

「当たり前だろう? 俺が気付いていないとでも? まさか、はは、なめられたものだな」

 その言葉には余裕が満ち満ちているようだった。思わず笑みがこぼれた。そんな顔をしている。

「何?」

「俺が力の王だ。力が王に従わないなどありえない。お前が何をしたか、消える力など無いに等しい」

 そう言ってのけたアルデンテスはシンの背後へと周り逃げ道を塞いでいた。

「なら、何故話した?」

「聞くことに集中させるためだ。どうやら引き込まれて足元が疎かになっていたみたいだな」

 差された先にあるのは先程踏んでしまった枝だった。

「クッ」

 何も言い返せない。言っていることはあっている。これが力を超越した力の創設者。

 たとえ、風が吹こうとも自然に視界に認識される我が力が役に立たないとは。

 すぐさま、逃げようとするも意思に反して体は動こうとしない。

「ハハハ! そんなものだ。お前の力は俺からしたら玩具同然!」

 ガクンと勢いよく体が動いた。同時に視界も大きく動いたが体の自由は戻ってきた。しかし、駆けようにも足は地面を掴まない。

「ナッ!」

「ハハハハハ!」

 高々とアルデンテスの声は響き渡った。



「今の声は!」

 何やら音が聞こえた気がしたがユリが起きた様子は無かった。

「ちょっと待っててね」

 ローズは不安を感じギルのアジトを考えもなく飛び出していた。

 高らかに鳴る音はヒトの声とは思えないもの。しかし、同時に聞き覚えのあるもの。

 だから急いだ。声を目指して。たとえ罠だと分かっていても誘われるままに進んで行く。

 走って走って走った先は学校。

 校庭。

 中心に居るのは子供のように笑う悪魔。

 砂の中で手をポケットへ突っ込み目を見開いて笑う姿はある種の狂気を感じずにはいられなかった。

「やはり来たなナメクジ。お前に用はないわ!」

 シンが目を見開いた。

 わかっている。勝てないという事は。

 何故来たのか怒りたい、叱りたい事も分かっている。

 だが、チャンスがあるならそれを使わずに諦めるような事はしたく無かった。

 まずは突進だ。

「フッ! ナメクジが俺に体格で勝てると?」

 と言いつつアルデンテスは今までに無い程華麗に突進を避けた。

 半歩横にずれただけだ。

 悔しさを胸にもう一度助走をつけて走り出す。

「何度やろうと同じ事だ!」

 アルデンテスは思った通りに同じ方向、ローズから見て左へ避けた。



「バッ」と布を巻き上げる。

 レースカーのごとく動かれては口撃魔法は当たらない。

 だが、かすりさえすれば何かしらの影響を及ぼせる。

 現に、アルデンテスにも文字が浮かんでいる。

 ならば、

「何ッ!!!」

 明らかに自らの力を過信していたアルデンテスは予想以上に驚きを見せた。

 布は脱ぎ捨てると視界を遮るためその顔を拝めない。その事は残念だ。

 しかし、そんな余裕は無い。これで十分すぎる。

 壁は通らずとも服などの布程度の厚さならば余裕を持って声は届く事は今までに見てきた。

 変身の布程度どうって事は無い。

「叫べー!」

 シンの声をスイッチとして自分でも驚くほどの声が響いた。

「ヒトになぁれ!!!」



「グアア! アア! ア!」

 再度の変化でアルデンテスは身悶えしている様子だった。

 悪魔たちの技術を侮り、そして、見抜く事ができなかった。幸いその事実が味方して事は片付いた。

「ありがとうな」

「いいさ」

 苦しむアルデンテスを傍目にシンは解放されたのか地面に着地した。

 長かった戦いはこれで終わりだ。

 アルデンテスが幕を開けた事ももう終わりだ。

「まだだ! まだだ!」

 光の中でアルデンテスは右手をこちらへ伸ばした。

 何も無かった。

 しかし、違和感があった。

 隣に居たはずのシンが居なくなっていた。

「なっ! なんでだ!?」

 シンはまたも宙に浮かされていた。

 イライの言葉を思い出した。

 ヒトになっても力はアイデンティティであり使い続けられる。

「君がさっさと球を使ってくれていれば世界はこんなに可愛そうな目に合ってなかったはずなのにね」

「私が悪いの?」

「ああ、そうだ。だが間に会う」

 消えたはずの割れたはずの紫に光り輝く球は元あった場所に現れた。

「それさえ使えば世界は君を認めその真の姿を現す事だろう」

 理解できない言葉の数々。

 変身の過程で力が弱まっているのか、少しずつ降りてくるシンが逃げろと目で合図をしている。

 あれでもまだアルデンテスに力が残っているのなら逃げたところで何にもならない。

 おとなしく、球まで歩く。

「やめ! うぐっ…………」

「おとなしくしていろ、もう俺たちは止められない!」

 シンが苦しみ、アルデンテスは不敵に笑う。

 時は止まったように静かになり鳥の鳴き声すら聞こえない。

 ただその一瞬の間に考えを纏めるには十分だった。

 跪く、手を伸ばす。

 もう消えた柱状の光に恐れることなく球を持ち上げる。

 さあ、元凶よ。

「粉々になぁれ!」

「何ッ!」

 言葉の通過からほとんど間を開けずに球体は砂と化した。

 校庭の砂と混ざり合い、もう球そのものを見分ける事は不可能となった。

「フハハ! フハハハハハ!」

「何が面白い!」

 シンは叫んだ。

 片手で顔面を覆ったアルデンテスとの間に割って入ってきた。

 どうやら空中固定は解けたようだ。

「いや、俺の見込みは間違って無かったようだと思ってな」

「何?」

「ローズ。君は世界を統べられる存在だ。が、本人はそれを望まないらしい。ならば世界はそっちが向いているということなのだよ」

「一体何が」

 シンが問返す前にアルデンテスは姿を消していた。



「あれ、私たち」

 アルデンテスが去った後、デスたちは間もなくして起き上がった。

 元気な彼らの姿に安堵しヘナヘナと地面に座り込んでしまう。

「大丈夫か?」

「うん」

 伸ばされたギルの手で立ち上がり仲間たちとの笑顔の再開を果たした。

 

 その後皆でギルのアジトを訪れた。

 ユリも共にその日は皆で笑いあった。

 これで一件落着だ。

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