第42話 警戒する
そんなこんなでやっとこさ状況を把握すると、話しだそうと息を吸った。
その時、
「動かないで!」
凛とした声が校庭に響き渡った。
その声の主はデスだろう。
これではまるで自分まで警戒されているみたいではないか。
「ちょっとどうしたの?」
「どうしたもこうしたも無い! ユリを倒したのはお前か!」
「そうだけど」
「ザワッ」と仲間たちは声をあげた。モンクが元気そうで何よりとも思っていられる状況じゃ無さそうだ。
ユリの部下になっていたドアイラトたちなら真っ当な反応だと言えそうだ。急にやって来たとはいえ王だったのだから。がしかし何故デスたちまでそのような想定外みたいな表情になるのだろうか。
「…………」
こちらからは聞き取れないが彼らは何やらコソコソと作戦を立て始めた様子だ。
わかったサプライズか。という自分の呑気なアイデアにそんな訳あるかい。とツッコむ。サプライズにしては段取りが悪すぎる。では何がどうしてこんなことになっているのか。
そんな仲間たちの変化の横で、別の、明らかに大きな変化が訪れていた。
それは闇。それは影。それは漆黒。
仲間たちの右側で1人離れた場所に立っていたアルデンテスの周囲から黒い霧が周囲へ出るような、体内へ入っていくような現象が起こっている。
作戦会議に集中しているのかデスたちはアルデンテスの変身に気づいていない。そもそもアルデンテスが会議に参加していない事にすら気づいていないように見える。
そして、ドアイラトたちを置いて、アルデンテスの体はみるみる反転していく。
白かった髪は黒く。
細かった体は太く。
そして青く爽やかな印象のアロハシャツは赤く紅く血のように染まっていく。
目の前の光景が信じ難く今すぐに逃げ出したい気持ちになるが必死に抑える。
今まで、仲間たちの戦いを眺めてばかりだったが、分かってきた事がある。緊張感と自分の命の危機感。今は動くとやられる。
「想定外の事だったがやはりあの娘は解決したようだ。見込んでいた通り。しかし、相打ちでは意味が無いじゃないか」
ドスの効いた声へと変貌したアルデンテスの独り言によってやっとデスたちはアルデンテスを見て、皆がその変化を認識した様子だ。
デスを皮切りに皆が口々に驚きの声をあげた。
「どうして?」
「一体何が起こってるんだ!」
「アルデンテスさん?」
モンクは警戒するでも無く心配したようにアルデンテスへと歩み寄る。
確かに体のおかしな動きを繰り返し呻きながら変わる姿は苦しんでいるように見えなくも無い。
「危険だ!」
そう、叫びたかったが、警戒している仲間たちに届かなかったら、警戒を強められてしまったらと思ってしまい声が喉まで来て止まってしまう。
目を見開いてそうこうしている間にアルデンテスは体をダルんと弛緩した。
とうとう辛さに耐えかねて気絶したように思えたが、違った。
アルデンテスは上半身だけ弛緩した後、目にも止まらぬ速さで動き出した。
車ならばレースカーを思わせるその速さに仲間たちもどうにか対抗しようとした。
危機と判断したのか倒すより見えない敵から守ろうとしているように見える。
まず第一に力自慢のムリドがアルデンテスを追いかけた。
しかし、アルデンテスのヒトを超えた速さに今のムリドが追いつくはずも無く、見失ったように左右を見回すと背後から蹴りを入れられて地面に倒れた。
「ムリドさん!」
ドアイラトは叫び翼で飛翔。
アルデンテスめがけて急速に地面に接する。
あやつられている可能性まで考えてか敵意だけでは無いようだ。
勢いよく着地し、ボフッと砂煙を舞いあげた。
ムリドを抱えた彼女が砂煙の中から出てくると垂直飛びの要領で跳び上がって来たようなアルデンテスは思い切りかかとをあげた。
瞬時に方向転換しようとするも間に合わずドアイラトはアルデンテスにかかと落としを食らわせられた。
再び騒音と砂煙が舞った。
悪い視界の中でも彼の瞳が赤く発光し吸い込まれるような感覚があった。
その気分をどうにか振り払ってその場で足に力を込める。
ほとんど一瞬の間にムリドとドアイラトという戦闘要員2人が成す術なくやられてしまったのだ。
残りのメンバーで戦ったところで勝ち目は無い。
逃げて反撃の策を講じなくては。
それを伝えるべく口を開いた。
鋭い視線を感じた時にはドゴドゴドゴと重なるような気分の悪い音が重なって仲間たちは倒れていった。
「……ヒトなんぞが俺に勝てる訳が無い」
黒髪の彼は吐き捨てるように言った。
あれだけ砂の中に居て服に塵1つ付いた様子は無い。
「現代っ子に期待をかけてみてもイマイチだし。期待してた娘は周りの奴が守れない程の力不足…………これじゃ俺じゃなきゃ駄目だよ。それにユリもだらしないし」
誰に話している訳でも無かった。こちらには背を向けていた。しかし、この言葉には体を緊張させずにいられなかった。
仲間たちがやられてしまった事実に対する怒りを大きく上回る恐怖。
それは体を竦ませるには十分だった。
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