第37話 悪魔的習慣
「しかし、これだから着といて欲しいんだよ」
シンはうつむき加減で言った。
迫力には欠けるがウカウが何の前ぶれも無く部屋に入ってきた事から断る理由は見つからない。多少の暑さは今は我慢だ。
そうは思いつつも言い訳を述べてしまう。
「分かった。でも、私はノックがあると思ってたの」
「俺っちたちにそんな習慣無いから」
「……そっか」
ローズはそうして、再びナメクジの変装をした。
「パンパン」と手を叩き作業を終えた様子だ。
匠の技で、シンはウカウを縛りあげた。
「オオー」という歓声を漏らしたいところだが「今はそんな状況じゃない」と言われてしまうことだろう。
「じゃ、俺っちが程よい奴を探してくるからちょっと待ってて」
「すみません。え?」
さらなる説教の幕開けかと思っていたために謝罪と素っ頓狂な声が出てしまい慌てて口を手で抑える。
「あーそうだった」
ウカウが入って来る前に獲物を探すためにシンは動いていた事を思い出す。さり気なくナメクジの布を脱ごうとして、
「まあ、ここにいる間は我慢!」
と叱られる。
「うん。でも」
「俺っちが居ない間も備えとくんだぞ!」
「わかってる。けど」
「危ないから待ってて」
「ドロン」と音を立ててシンは影も形も無くなった。
一体、程よい奴を探してくるからってどういう事なのか説明してくれても良いではないか。
しかし、居なくなっては勝手に動く訳にも行かず、また、ナメクジでなくなる訳にもいかず、今度こそはベッドに横になった。
連れて来るという事だろうか。それともこっちから行くのだろうか。と考えたところでさっきのシンがウカウを下っ端呼ばわりしたにも関わらずヒトにするまで気絶させられなかったことを思い出す。
「はあ」
とため息を漏らさずには居られなかった。
シンもそこまで万能じゃないという事だろう。
そもそも怪我だってしている。
我慢。
責任を押しつける訳にもいかない。
では、何か今の自分にできることはないか。と部屋を見回したところで特に気になるものなどあるはずが無い。
あればとっくに、「これは…………!」などとシンが何か反応を示した事だろう。
左から順々に見ていたところで、最後に強烈な赤が目に入る。その事で思いつく。
あるではないか。
そう、目の前で気絶し、縛られている可愛そうな元牛さんが居るではないか。
そこまで思いついてしまっては体を動かさずには居られない。
あまり強く揺さぶっては、シンを信じていない訳では無いが起こしてしまうかもしれない。
そんな不安がありつつも体を触ると、まあ、上半身裸な彼はヒトのため肉に何かを隠せるような状態では無いので、探すべきはズボンだ。
ちょうど、物が入りそうなポケットを発見。
素早く手を突っ込むと何やら金属質な感触。
これは……! と思い引っ張り出すも中身は、
「メダル? 何でこんな物が」
しかも、デザインや大きさはウカウが首から下げている物よりもショボい。
気にはなっていたがどこか触れたくない見た目をしていたためスルーしていた。どうもデザインが奇抜すぎる。
しかし、ショボい分だけポケットに入っていた物は幾分受入れやすい。
余計に何故持っているのか、起こして問いただしたい気持ちになるが騒がれては困る。
「見つけたぞ! って何してるの?」
シンが勢い良く空中から飛び出した。
「あっ、いや、これは〜」
などと今度はローズが慌てふためき何やら弁明しないといけない番となった。
「何かしないとって思って、ウカウの体を調べてたらこれが出てきて……」
シンも最初はジーも目を細めて見たものの、軽く手を振る。
「それは新入り用の奴だな」
「これ? へーどうりでデザインがショボい訳だ」
「まあな」
「着けなきゃ?」
「いや、義務じゃない。好きなら着けてもいいけど、俺っちだって着けてないし」
確かにシンは言うとおりウカウと違いメダルを首からぶら下げていない。
サッとポケットから取り出したところを見ると携帯はしているようだ。
自分でもショボいと思ってしまったアクセサリーをわざわざ着ける趣味は無いローズはせめてもの思いでポケットへとしまった。
「何かやろうとしてくれるのはありがたいが、特に何も無いと思うぞ」
行くぞとばかりに手で合図するシン。
とんだ無駄足にがっくりきて、
「……すみません……」
と頭を下げてウカウのもとを去る。
「行くぞ」
「うん」
部屋を出た。
シンが差す先はもう数十歩の距離だ。
しかし、敵地に入り込んでからはもしかして悪いのはこちらなのではないかと思えてしまう。
しかし。
それはない。
強くならなくてはならない。
悪魔たちのためにもユリのためにも。
そして、自分自身のためにも。
力の獲得。
そのためには口撃魔法の使用が必要。
最も簡単に文字が出てくるのが感覚的には悪魔たちだった。
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