第33話 侵入の実演
「じゃ、頑張るぞーエイエイオー」
ローズは笑顔で手を突き上げた。
「え?」
シンは困惑したような声を漏らした。
「シンも一緒に一緒に」
「エイエイオー?」
「そう、やろうよ」
それは手を上へ持ち上げる意気込みの一種。
しかし、
「い、いやーもうやったみたいだし良いんじゃない?」
とまたもぶり返したように目を泳がせている。
「これはアンタの」
布の手にして声に出す。
「わかりましたやります」
フーと息を吐き出し気を取り直したところで、
「「エイエイオー!」」
と小さく叫んだ。
それを合図としたようにシンはドロンという音を立てて視界から消えた。
キョロキョロと辺りを警戒しながら誰も居ない城門までの数メートルをまるで散歩かのように時間をかけ歩いていると、
「さっきから門を気にしてたけど、ここは新入り用の入り口で正門じゃ無いから誰も出てこないぞ」
とローズに話す声が空気を揺らした。
反射的に「ウォッ」と言ってから、
「それは分かったけど、ビックリするから急に話すのやめて」
とだけ言い。
肩がチョンチョンと触られると、
「分かった」
と再び空気が震えたのを最後に「ゴゴッ」という門の動く大きな音で現実へと引き戻された。
門はそのまま続けて「ゴゴゴゴ」と低い音を響かせつつ左右にスライドしていく、しかし、開いた先には誰もおらず、自動ドアならぬ自動門に心を踊らせ少しずつ中へ中へと進んでいく。
獣道のようなわかりやすい道があるわけではないが、門の先は中庭のようになっていて、真っ直ぐ進むとドアのような物があり、なんのためのスペースなのかは計りかねるが、誰も居ないことをこれ幸いとしてズンズン進んでいく。
促されることなくとも吸い寄せられるようにノブをひねるとドアは簡単に開き、ほんの数分で城内へと侵入することに成功した。
シンが言っていた事も本当かもと思えてくる。
最初から強い者に囲まれていじめられ、中にすら入れ無い。そこまで野蛮でも無かろうが有り得そうな状況を想像しつつ一歩また一歩と歩を進めていく。
傍から見ればナメクジなため足は見えていないものと思われるがローズ自身には足があるためそんな細かい事を気にする事なく進む。
「きっと正門では、まあ俺っちじゃどうにもならない奴がウジャウジャと居たんだろうなぁ」
という音声を無視し、ただ長く真っ直ぐ進む道をひたすら突き進んで行く。ロウソクのかすかな光もいくつも並ぶことで十分照明として機能し足元が見えなくてこけるような心配は無さそうだ。
「そういえばムイがやられたことで、正門には力を超越した力の持ち主たちが大勢居たんだろうなぁ。ああ、怖い怖い」
「ねぇ、そんなに喋ってバレたらどうするの?」
「大丈夫だよ俺っちこれでも隠れることのプロだぜ?」
直そうとする気配の欠片もないシンに息を吐くことしかできず自分こそ空中に急に話しかけてたら怪しまれる。と考え直し道に沿ってただ進む。
しばらくすると、
「オッ新入りか? アッレー? 連絡は来てないけどなぁ……」
心音しか自分の耳まで届かない状況で、もしかしたらこのまま永遠と廊下を歩くことになるのでは無いかという不安感を打ち破ってくれたのは突き当りにいた赤毛の牛さんだった。
いや、この場合、打ち破られたが正確か。
椅子に座った様子の彼は声質からは男性のよつに感じられるが、ドアイラトのような例もあり正確には分からない。
そして、言葉の内容も「オッ」となるような「ヤバいッ」や不安になるような内容だったがコソコソと耳元でシンが囁いた言葉通りに言う。
「すみませ〜んもしかしたら連絡忘れてたか、まだ伝わって無いのかも〜」
「そうか! まあ、そういうこともあるんだよ。時々だけどな、気にすんな!」
あるんだ。それでいいんだ。と思ったもののそれを声には出さずに表情にも出さないよにし、ずさんな彼らの生体は無視する。
意識を別へ逸らすためにジッと牛さんを上から下まで見ると身長差はそこまで無い。立ち上がったにも関わらずローズが少し見上げるくらいの高さである。
そして、どこか筋骨隆々と相場で決まっていそうなものな気がする牛さんの悪魔だが、上半身裸であるが細く絞まった体で細マッチョの印象だった。
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