第28話 自らの意思、これまでの流れ
そう、これまでの世界は。
これからはそれが変わる。
ユリの登場とその機会をムイが利用することで。
それがムイの野望だった。
その後もドアイラトは予想どおりにローズたちを倒すことは無かった。
そしてすぐに次に送り込むのは誰がいいかと聞かれた。
「クドーかと」
「なるほど」
そうして、味方の危険因子と邪魔者をローズに対峙させ、自然となるように他の場所も指定し、どちらが勝っても負けてもムイの得になるように事を進めてきたはずだった。
それがまさか、自分が戦うことになるとは、ムイは思っていなかった。
参謀として生かされると思っていたためにアテが外れた思いだった。
だが、さして問題では無かった。
もう、ユイが去ろうが去るまいがムイとしては整えられた環境であることに変わりは無かった。
自身の敗北など夢にも思っていなかった。
「しかし、何故シンがローズたちの仲間になったとわかったの?」
「それは、我々は戦闘時に体臭が変わりますゆえ」
「そうなの? でも地上からは距離があるでしょう?」
「ええ、しかし、強い嗅覚を持っていればわかるものです」
「そう、私にはわからなかったわ」
「それはムリはありませんよ」
「そうかしら?」
「お話もそれくらいにして、ユリ様」
「わかってる。ムイ、お願い」
「わかりました。行ってまいります」
ムイはユリの部屋をあとにし地上を目指した。
ローズの目に何かが接近してくるのが見えた。
「みんな! 誰かが」
ローズが言い終わる前に「ゴオン」という衝撃音、校舎からの土煙が立ち上がり辺り一瞬では前も後ろも見えなくなった。
「みんな、無事?」
ローズはこんな時イライの能力が状況にも対応していたらと思った。
「オウ!」
というムリドの返事を皮切りに皆が無事を知らせた。
1つの強風により土煙が晴れると校舎があった場所は元から何も無かったかのような平らな土地となりそこには1人ポツンと少女が佇んでいた。
明らかに場違いで、明らかに異様な光景も全ては少女の仕業だとローズはこれまでのことから判断した。
「あれは?」
というローズの言葉に答えたのは体中を震わせているシンだった。
「あ、あああ、あれはムイ」
「ムイ? それより」
何でそんなに怯えているの? と聞くより早くシンはその場で急に横になった。
右斜め後ろに居たシンを振り返るようにしていたローズは、咄嗟に周囲を見るもシンが横になったことへの驚き以外に変化した様子は無かった。
少女すらその場から動いていないように見えた。
「何? 何が」
起きたのか、そこまで言おうとしていることを察して口を開いていたモンクを見た時、モンクもシンと同じように地面に横になった。
2人はまるでさっきからずっと熟睡していたかのように穏やかな表情で横になっていた。
「……え?」
もう1度周囲を見るもやはり他には何も変化している様子は無かった。
敵であろう少女は何もしていないにも関わらず仲間たちは静かに横たわっていく、そんな状況に何かしようとすれば自分も? と考えたローズたちは体から血の気がサーっと引いていくのを感じた。
何よりもすでに純粋な悪魔のシンがやられているのだ。
ムリドを頂点とした力による統制に不満を持つ者は少なく無かった。
最初はその者たちはただ単に自らに力が無いことを悔い、力を持つ者たちを妬むことしかできなかった。陥れることすら叶わなかった。
しかし、力以外に価値を求め小さくとも確固とした意思を持つようになった彼らは少しずつ少しずつ数を増やし、そして、力を超越した力を夢見た。
始まりでは現実逃避の夢物語だったが次第にそれは現実味を帯び始める。
とある者が過去に、力を超越した力を持っていた。そんな書物を見つけたのだ。
探るうちに力を頂点としてきた者たちの祖先が消すことに躍起になった時代があったことまでわかった。
完全に消し去ることなどできなかったのだ。今は力無き者たちのものだった力を超越した力の存在を。
力を手にするために、取り戻す為に何世代もかかったが、彼らは表では力を支持し、裏では力を超越した力で判断した。そのことで力を超越した力について勘づかれることなく着々と事は運んでいた。
そして、時は今に至る。
そう、ムイ。私こそが今の頂点だ。
ムイはそれを現実と信じて疑わなかった。
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