第29話 時間と隣合わせ
一時は誰もが忘れかけたことを再び蘇らせ、今までつないできたことをここで止めるわけにはいかない。力関係をひっくり返す。それが私の使命だ。とムイは思い込んでいた。
そこにユイが現れた。
今までのムリドを頂点とした関係は取り払われた。
全てが平らになり、ユイのみが唯一の頂点となった。
力で全てを評価していた旧態勢が無くなっただけでムイたち力を超越した力の持ち主たちはユリを評価した。
力関係をひっくり返す事は難しくなったもののそれ以上に上下が無くなった進歩の方が大きかったのだ。
幾年月かかろうとも果たせなかったものを外から来た者とはいえ果たしてくれたわけだ。評価せずには居られなかった。
危険因子とムイが判断したのはそのユリの行動に賛成しない者たちだ。
彼らはユリに気に入られたか、説得できたと思い込み地上へ降りて行った。
しかし、それは本人の幻想でしかない。ムイの指示であり、ユリの実行だ。
着々と城内はユリ帝国へと変貌しているのだ。
まだ、力を支持するものは残ってはいるが、もう覆せる状況ではあるまい。
あとはローズを片付けるだけだ。
あと少しだ。
もう終わる。
しかし、他の者を寝かせても逃げ出す様子も怯える様子も何も無い。何も示さない。
何が起こっているのかを理解しているわけではない。はずだった。
ムイ自身が自らの能力を高く評価しているからこそムイはローズへの攻撃だけはできていない。
ムイは時とほぼ隣合わせの生活をしていきた。
ムイは時と友になり時の力を使うことができる。
ムイはそれゆえ、他人に気づかれることなく攻撃を加えられる。
ローズ以外はその力によって地面に寝かされた。
ムイはローズを警戒していた。
理由は簡単だ。
ムイは時に近づきすぎた。ムイは時の向こう側まで見えるようになった。それが今はローズに有利に働いているのだ。
決して動かせないものではない。しかし、動かせた事実が数えられる程しかないムイは見えた未来を絶対視しているのだ。
ムイが見たもの、それはローズが先頭に立った平和な世界。そこに並ぶ寝た者たち。
ローズを警戒するのはこれから平和の立役者になるであろうローズにどうあがいても自分の到達する未来にならないこと。
何者も動いていない世界の中でローズだけは何をしてもどうにもならない。
せめて、と思い。
「このメガネがどうなってもいいのか?」
とモンクを人質にとった。
「あっ」
ローズは気づくとモンクが少女に抱えられている状況を目にしていた。
ローズには何が起きているのかを知る術が無かった。
しかし、本があった。
希望の綱である本が残されていた。
偶然だった。
ムイは他人に触れている状況では時の隣に立てなかった。
モンクはムイを止めたのだ。
そして、冷静で無かった。
本を落としたことに気づくことが無かった。
まして、モンクが本を持っていたことにも意識を向けてさえいなかった。
ローズを、未来を警戒しすぎていた結果だった。
ローズは初めて本を開いた。
パラパラめくると必要箇所以外頭に残らなかったがそれで十分だった。
自分がここに立って居ればいいということが何よりも安堵を与えた。
「はあ、結局戻って来ちゃった」
デスは言った。
「デスお願い!」
ローズは叫んだ。
デスはローズの言葉で周囲の変化を確認し校舎の状態から少女をターゲットし、予備動作なしで少女に激突した。
光が広がることなく少女にぶつかり続けた。何度となく刺すような光が校舎の跡で輝いたものの片膝を地面につけたのはデスだった。
「そんな……」
「わ、悪い。遅れちゃって」
ギルは言った。
後ろには申しわけ無さそうなクッスとスロスが立っている。
そして、ギルの腕にはリムが抱えられていた。
「ピッタリなはずだったんだけど」
ギルはローズが本を持っていることに気づくと理解したように顔をうつむけた。
「違ったのか?」
「うん。デスが女の子を倒してくれるはずだったんだけど……」
それより先は続かなかった。
皆地面を見ていた。
その場には諦めムードが漂っていた。
「何してるの?」
「あれ?」
「あれ? じゃ無いわよ。まだ終わって無いでしょ?」
元気そうな振る舞いだがしかし、息が切れていることをローズは感じていた。
「そうだけど……」
それに、デスは先程まで少女の前で片膝をつけていたはずだ。
その状態からギルと少しの会話中にローズたちのもとへと戻って来ていたのだ。
「あんたたち、力を貸しなさい」
デスはギルたちに言った。
「……だ……」
「さっさと」
「いいだろう!」
ギルたちは目を輝かせデスの手を取り4人で円形になった。
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