第22話 落ち着く暇もない

「あーあ。何してるんですかおばはん」

 ドアイラトはその場を取繕おうとヘラヘラして言った。

「おばっ! 今はそういう場合じゃ無さそうね」

 イライはそうして微笑んだ。

「ワタクシはユリ自体が嫌いなわけじゃないのじゃ。ただユリの生き方がワタクシと合わないだけなの」

 イライはユリと話した時のことを話し始めた。

「確かに、突然やってきて1番上の存在になったことに気に食わない思いもあったわ。でも、それ以上にワタクシの嘘がわかる体質が彼女と合わなかったの」

「それはどういうことですか?」

 ローズは尋ねた。

「昔からそうなのかはわからないけど……」

「はい」

「……今のユリは嘘しかついていない」

「え?」

「いえ、昔からそうだって言ってるわけじゃないのよ? ただ、嘘が嘘だとわかるとワタクシ自身、痛みを伴うほどだったからどうしてもね」

「……そうですか……」

「さあ、辞めにしましょう! もう十分でしょう!」

 イライは両手を叩いて雰囲気を変えようとした。

「待ってください」

 ドアイラトは声を潜めて言った。

「何よ何かあるの?」

「ええ、誰か居ます」

「そんな気配無いけど」

 ローズたちは辺りを見渡した。

 イライと話しているときから少しずつ学校へ歩いてきたがヒトが隠れられるような場所は、ましてや悪魔が隠れられる場所は周囲には無さそうだった。

「何もいな」

「静かに……誰か居るんですか?」

 ドアイラトの声に答える者は誰も居なかった。



 少ししてローズの耳にも物音が聞こえ始めた。

 ガサッガサッといった音でやけにゆっくりなのがローズには気になった。

 そして「ガサガサッ」と突然草むらが揺れた。

 今まで歩道を歩いていて道に迷うことも無かったローズたちだったため、街の装飾である木々の中にヒトが隠れられるなど考えもしなかった。

 当然のようにローズたちには不意打ちとなった。

 しかし、咄嗟にドアイラトが飛び出したことでローズの身にもドアイラトの身にもなにごとも無かった。

「あなたは?」

 イライは尋ねた。

「……」

 返事はなかった。

 ローズは体を起こして道の先を見ると見覚えのあるシルエットが両手を前に伸ばしてイライに向かって歩いていた。

「敵と考えていいのかしら?」

 ローズが「駄目」と言うと声は小さかったがイライの頭上は赤く光った。

 ホッと胸をなでおろす。

「もういいかい?」

 ローズはドアイラトに言った。

 緊急回避のためにドアイラトがローズの上に乗っていたからだ。

「すみません」

 ローズは先に立ち上がりドアイラトの手を引き立ち上がらせた。

「イライさん。攻撃はしないでください。そのヒトは友だちのサクラです」

「わかったわ。ところで何か文字は見えるの?」

 イライにはすでに口撃魔法の説明をしている。

「すみません。何も……」

 ローズはかぶりを振った。

 ドアイラトの緊急回避で移動したとはいえ見えないほどの距離では無かった。そのため何らかの理由で見えないことは明らかだった。

「とにかく1度戻ります。ついてきてください」

 イライはコクリと頷くとローズに続いて学校へ向けて走った。

 解決策はわからなかったがモンクとアルデンテスの力を借りるためにローズは駆けた。

 幸いというべきかサクラはローズたちについてきた。

 しかし、肌は影に包まれたように黒く染まり目元も怪しく赤く発光していた。その今の姿にローズの知る元気な姿は無かった。



 学校に着くなり、

「モンク、アルデンテス、何かヒントは?」

 とローズは尋ねた。

「どうしたんだい? 急に」

 アルデンテスは言った。

 ローズにとってはじれったく、帰ってくるなりということは頭に無かった。

「とにかくあれを見て!」

 そこにはやっと追いついてきたサクラの姿があった。

「え!? 誰ですか! あれ、ヤバいじゃないですか」

「え?」

 ローズにはモンクのセリフの意図がわからなかった。

「誰ってサクラだよ」

「サクラって、サクラさん? あれが? 何でわかるんですか?」

「逆に何でわからないの?」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう」

 アルデンテスはモンクから本をひったくるとペラペラとページをめくりだした。

「あぁ」とモンクが声を上げた。

「わかった! ムリド」

「何だ?」

 アルデンテスはムリドに何やら話した。

「わかった!」

「何を言ったんですか?」

 モンクは尋ねた。

「今回のカギは価値観らしい」

 アルデンテスは答えた。

「価値観?」

 ローズは首をかしげた。

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