第21話 猫

「あんた! お嬢さんと言わせておいて、バカにしてるわね! リーマーのことで認めてやってたのに」

 イライは叫んだ。

「い、いえいえ!」

 お嬢さんと勝手に言ったのは自分だろうと思いつつもローズは言った。しかし、今度は青✕が爛々と輝いていた。

「あなたねぇ!」

 とイライは叫んだが、

「あっ」

 ローズが手を振り否定することで紙を落としたのが目に入ったのか、

「それは?」

 とイライはローズに尋ねた。

「これがどうかしました?」

「もしかしたらと思って、それシンの?」

「はい。そうですけど、どうして?」

 ローズは尋ねた。

 イライの頭上は赤く輝いていた。

「やっぱり、その雑さはシンだと思ったのよ」

「見えるんですか?」

 ローズたちとイライとの距離はそこそこあろうかというものだった。

 それなのにイライは紙切れが落ちたことと何が書かれているのかを見抜いたのだ。

「当たり前じゃない。これでもヒトには化け物として恐れられるべき存在よ?」

「そうですよ。あまりなめないほうがいいですよ。イライさんはおばはんって言われるのを嫌ってますから」

 ドアイラトは囁いた。

「なんですって!」

 ドアイラトの声は明らかにイライに聞こえる大きさでは無かった。どうやら耳もいいらしい。そして○が光っていた。

「まあ、いいわ。シンの頼みなら聞いてあげようじゃない。何がいい?」

「仲間になってください」

 ローズは言った。

「オホホホホ!」

 イライは声高らかに笑った。

「何かおかしいですか?」

「いいえ、でもそうね私は嘘をつけない。いいわ仲間になりましょう」

 イライの頭上の○はこれまでになく赤く輝いているようにローズには見えた。そしてイライに映った文字が今までで初めて見るものだった。

「ただし、1つ頼みがあるの」

「なんですか?」

「その猫触らせて」



「いいじゃない」

 イライは言った。

「嫌ですよ。何度言ったらわかるんですか? おばはん!」

 ドアイラトは言った。

「なんですって! おばはんじゃない!」

 ローズはイライを気の毒に思い○✕を見ないことにした。

 今またドアイラトが駄々をこねて状況の進展を阻んでいた。

 イライはただクドーのことを触りたいだけなのだ。それをドアイラトが独り占めしようという目論見で阻んでいた。

「何も悪いことは無いでしょう?」

「そんなことないです」

 ローズにはさっきから言葉が交わされるたびにピカピカと光るものがうざったくなっていた。確かにコミュニケーションを取るのは面倒になりそうな能力だった。

「ハイハイ。もういいでしょ」

 ローズは言ってクドーをドアイラトから奪った。

「あぁ!」

 とドアイラトは叫んだがもう遅い。

「ハイ」

「ありがとう。お嬢さん」

「何でですか? 何するんですか! いいんですか? クドーですよ?」

「そりゃいいでしょ」

「味方じゃないんですか!」

 ローズはクドーをイライに触らせることを否定した記憶は無かった。

 そのうえクドーならもし何かあっても対応できるだろうと思っていた。

 ローズには根拠は無かったがしかし、クドーを信じていた。クドーを立派な仲間だからだ。

「……」

 ドアイラトは黙って頬を膨らませていた。



「ありがとうこれで満足だわ」

 イライは言った。

 イライにクドーを渡してからも長かった。

 誰に抱かれてもおとなしくしているクドーだからか一頭身の猫だからかそれはもう撫でまくっていた。

「さあどうするのかしら? ワタクシとしてはもうお嬢さんたちの仲間のつもりなのだけど」

 確かにその証拠としてイライの頭上の○は赤く輝いていた。

「使いましょうよ」

 ドアイラトは言った。

「そうね」

 ドアイラトに同意しローズはイライに照準を定めた。

「な、何?」

「ヒトになぁれ!」

 イライの体を文字が通った。



「不思議な感覚ね」

 イライは言った。

 今ようやく光が収まりイライはヒトとなったところだった。しかし、相変わらず頭上に○✕を残したままだった。

「これはワタクシのアイデンティティで悪魔であることの証明ではないようね」

「そりゃそうでしょう。アタシはまだ飛べますから」

「あ」

 ローズはこの瞬間何故徒歩でここまで来てしまったのかと自問した。飛行していればもっとラクに問題が解決したような気がした。

 しかし、答えを出す前に、

「まあ、これで清々したわ。ユリは苦手だったの」

 イライは言った。

 ローズは俯いた。

 行く先々で友のことを悪く言われれば仕方の無いことだろう。

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