第19話 回答と情熱と提案と

「嫌です」

 しかし、ドアイラトの言葉はシンプルだった。

「構わないさ。最初は誰だってそうだろう。しかし、少しずつ理解を深めていけばいいじゃないか!」

 シンは熱っぽく語りだした。

「誰が言ってるんです? 今、断られたことわかってます?」

「わかってるさ。理解している。もちろんじゃないかだから一緒に前進して行こうって言ってるのさ」

「わかってませんよね」

「わかってるよ。俺っちこれでもユリ様を説得して単独行動を許してもらってるからな」

「え」

 ドアイラトだけでなく、アルデンテスもモンクも声を上げた。

「じゃあ、なんでずっとグルグルと走り回ってるんですか?」

 ドアイラトは言った。

「これか?」

 襲来者は接近を辞め今ではドアイラトの周りを常に走り回っていた。明らかに不審者だった。正確にはドアイラトに近づくなり周りをウロウロし始めた。明らかに不審者だった。今では全力で走っている。明らかに不審者だ。

「俺っちは君の全方向の姿を見ていたい」

「楽しいですか?」

「とても、とてもとても! 楽しい!」

「そうですか」

 ドアイラトの顔には苦笑が浮かんでいた。



「敵っ?」

 ローズはドアイラトの周囲に居る存在を警戒した。

「ローズさん。いや、あの〜」

 モンクは言った。

「多分大丈夫じゃないかな?」

 アルデンテスは言った。

「どっちですか?」

「こんなの相手にすること無いわよ」

 デスは言った。

「おっと、あんたがローズちゃんだな」

「違うわ」

「じゃあ、あっちか?」

「そうよ」

「オッシ、話は早い。俺っちはシンだ。ローズちゃんを殺しに来た」

「やっぱり敵じゃない」

「焦りすぎだぜ。話は最後まで聞けい」

 シンと名乗った襲来者は顔に黒い包帯のような布を巻きつけ目しかまともに見えなかった。そんな忍者のような格好にも関わらず服装はTシャツに半ズボンだった。

 ドアイラトの元の姿よりもアルデンテスの姿だったムリドに近い。ヒトのような見た目と背格好をしていた。

「俺っちこの可愛こちゃんには一目惚れだ。そこで、俺っちはローズちゃんの仲間になる!」

「本当?」

「ああ、ただし、条件がある」

「また?」

「またかは知らんが、簡単だ。もうバレてるその口撃魔法。俺っちには使わないでもらいたいそうすればスキを見て援助ができる」

「本当ですか?」

 ドアイラトは尋ねた。

「本当だとも。好きな女に嘘はつかねぇぜ」

「げぇ」

「今のこの動きもさっきは可愛こちゃんを全周囲から見るためと言ったが、激しい戦いを繰り広げているように見せるためでもあるんだぜ」

「そ、そうですか、どうしますか?」

 ドアイラトは今度はローズに尋ねた。

「わ、私はいいと思うよ」

 皆、次々に賛成した。

「使えるものは使うべきね」

 デスは言った。

「オシ、じゃあ早速……城へ行こうか」

 急にシンはザザーと音を立てて立ち止まった。

「城、行きたいだろ?」

 シンは言った。

「ええ」

 ローズは言った。

「城へ行けばローズちゃんの口撃魔法も鍛え放題だぜ」

「何? 城? 城ってあそこへ登るの? それは信じられない!」

 デスはそう言ってそそくさと校庭から出ていった。

「お、オイ! それでも女神かよ! ったく、俺たち勇者団に任せろ!」

 ギルは言った。

「でヤンス!」

 クッスは言った。

「だよ」

 スロスは言った。

 勇者団の3人は急いでデスを追うためにデスに続いて校庭をあとにした。

「お願い!」

 ローズは言った。

「オヤオヤ、で、どうするんだい?」

 シンは言った。

「確かにいいチャンスかもしれません。でも、今は行きません」

「おや、逃すのかい? このチャンスを? またと無いかもしれないチャンスを? お友だちが心配?」

「それもありますが私はあなたを完全に信頼したわけではありません。ヒトにならないという条件。それに何より自分が実力不足だと思うんです」

「あらそう。ま、俺っちのこの誘いも今回が最後ではないから安心して、で最後に」

 シンはドアイラトに向き直って、

「君の名前を聞かせてくれないか?」

 と言った。

「アタシはドアイラトですが」

「え」

 シンは膝から崩れ落ちた。

「そりゃないぜ! そりゃ詐欺ってやつだぜ!」

「何がですか?」

「で、でも、それでも……好きだぜ」

「もう意味わかんないです」

 ドアイラトはプイッとシンから顔を背けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る