第18話 解放と襲来とプロポーズと

「何で?」

 ローズは言った。

 ローズにはデスが自分を止めた理由が瞬時に理解できなかった。

「私が出番を奪ったんだもの。練習よ」

「何の?」

「そんなこと言ってる時間は無いわ」

 デスは手短に遠くに声を届けるコツをローズに教えた。

 ローズは反発することなく実践した。

「ゆっくりになぁれ!」

 言葉の通過したリムはカタツムリのように動きを遅くした。

「何でこんなこと知ってるの?」

 リムはすでに小さな体で走ったとは思えないほどローズたちから離れていた。

「私は女神よ。声を届けるのは仕事の内だわ」

 それがデスの回答だった。

「そうなんだ」

「そうよ。それよりあんた!」

「俺!?」

 ムリドは言った。

「なんでアレが居るってのを知らせなかったの?」

 デスはリムを指差して言った。

「いや、案内したのは俺じゃないし、それに……」

「それに?」

「俺、力で1番。それでよかった」

 ムリドは急に片言になった。

「まあ、いいわ。あとはローズにまかせるわ」

「任された」

 カタツムリのように遅くなってからもリムはほんの少しずつ進んでいるようにローズには感じられた。

 しかし、その差はデスから教わった発声術を使えばあってないようなものだった。動きも遅くなっていることから安心して口撃魔法を使うことができる。

「自由になぁれ!」

 ローズは叫んだ。

「ちょっと何言ってるの?」

「え? だって私の目にはそういうふうに」

「……はあ、不便ね」

 デスは同情のため息をついていた。

「そうかな?」

 ローズはなにごとも無かったようにデスに笑いかけた。



 リムの体に再び文字が通った。

 恐怖の感情に満たされていたリムの心は霧が晴れたようにスッキリした。

 もう、リムはリーマーにもユリにも恐怖する必要が無くなった。

 リムは頬をほころばせて走り出した。



「帰ってきませんね」

 モンクは言った。

「仕方ないさ、面倒なことになっているのだろう」

 アルデンテスは言った。

「アタシが行きま、ま、ま……」

 ドアイラトは言えなかった。

「無理だろう? さっきから」

「……はい」

 ドアイラトたちはローズの体を守るために学校に待機していた。

「でも何でローズさんの体に魔法を使っちゃいけないんですか?」

 ドアイラトは尋ねた。

「それは……」

 アルデンテスとモンクは本の内容とローズの行動を想起した。



 それは、ローズたちがスロス救出に行く前。

「これ、私に口撃魔法を使えばいいんじゃないですか?」

 ローズは言った。

「だ、駄目!」

 モンクは叫んだ。

 モンクの必死な行動にローズは身を引いた。

「ど、どうしたの? 急に」

「仕方ないさ、主人公は自分の体に口撃魔法を使って無いんだよ」

 アルデンテスは言った。

 額には冷や汗を浮かべていた。

 ローズはそのことでアルデンテスが表情には出していない心配を感じたことを悟った。

「は、はあ。それで?」

「だから、何が起こるかわからない以上辞めておいたほうがいいかなと、取り返しがつかないことかもしれませんし」

 モンクは言った。

「確かに、ユリと同じように文字が見えない……」

「あっ」と言ってローズは振り向いたがすぐに肩を落とした。

「どうしました?」

「紫の球も、文字が見えなかった」



 アルデンテスは当時のことを思い出させるためにドアイラトに説明した。

「そうでしたね」

「うっかりしてるんですね」

 モンクは言った。

「馬鹿にしてるんですか?」

「別にそういうわけじゃ」

「おしゃべりは一旦辞めにしようか」

 アルデンテスは言った。

 すでにアルデンテスは左腕を横に出しモンクとドアイラトに下がるよう指示を出してした。

 視線は上、空、うごめく黒い物体へと向いていた。

「……誰か来ているようだ」



「ドスン」と何かが落下してきた。

「ハッハッ! こんな目立つ登場しかできないなんてね」

 声は高く舞い上がった砂煙の中のシルエットは子柄だった。

 今回の襲来者には翼が無かった。

 しかし、地面に着地した。

 舞い上がる砂煙が晴れると何事も無かったかのように立ち上がった。

「おっと警戒しても無駄だぜ? 俺っちはローズちゃんってのにしか、きょ、う、みが」

 言葉は途中で切れ、アルデンテスは一歩足を引いた。

 何かの心理的な作戦をアルデンテスは警戒したが手に何も持たず一直線に近付いてくる。

 その姿はあまりにも無防備。

 素人目にもスキしか無いことが明らかだった。

 そのうえ、

「た、タイプだ」

 と言い出した。

「え、え?」

 ドアイラトは動揺した。

「降参だ。降参でいい。俺っちは正直もう城に居たくなかった」

「はあ」

「だから、つきあってくれ! むしろ結婚してくれ!」

 次第に熱のこもった言葉へ変わり襲来者の顔は赤くなっていた。

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