第16話 ヒトは夢を見抜けない
「着いたわよ」
デスは言った。
「何も無いじゃないか!」
ムリドは言った。
「うるさいわねぇ。ローズ!」
「私!?」
「見えるでしょ? 隠れてるの、見えるようにしてあげて」
「見えるでしょ、って私には何も」
「あーもう!」
デスはそう言うとローズの背後に回った。
「何!?」
「その場にしゃがんで」
「え!?」
「いいから!」
ローズがその場にしゃがみ込むとデスは親指と人差し指で輪を作りローズの目の前にメガネのようにして構えた。
「見える?」
「見える見える!」
ローズの目にはようやくデスの言っていた存在が映った。
「見えるようになぁれ!」
空を言葉が通り過ぎると次第にギル、ムリド、クッス、スロスの目にも見えなかった存在が視界に現れた。
「あ!」
最初に声を上げたのはムリドだった。
「アイツは! リーマー」
「ふーん。リーマーって言うのね」
デスは言った。
リーマーはでっぷりと太った体をし、足を前に突き出した巨体の存在だった。肌は黒く、赤い空のもとでも怪しく光り輝いていた。
「見えてるのか?」
リーマーは言った。
「ああ! 久しぶりだな!」
「お前のようなヒトは知らん。それにそもそもヒトとの関係なぞ持っておらん」
「俺は元悪魔だぜ!」
「何……?」
「俺はムリド! リーマー、俺たちの仲間になれ!」
「仲間だとぅ?」
リーマーは腹を抱えて笑い出した。
「面白いこと言ってくれるじゃないか」
「本当か!」
「ほめてるんじゃない。バカにしているんだ」
「何!?」
「ムリド、お前は力で頂点を取ったつもりかもしれない。が、悪魔は力が全てではない。口撃魔法を使えるヒトがいることは知らなかったがな」
「……口撃魔法を知っている……?」
「ああ、知っているとも、どうせムリドと同じようにこのリーマー様もヒトにすることで力をつけようという魂胆だろう」
ローズは密やかに言ったつもりだったがリーマーには聞こえていた。そのことでローズたちは目を大きく開いた。
「フハハッ! 力だけが悪魔の全てではないと言っただろう」
リーマーは自慢げに歯を出して笑った。
「そうね。この静けさもリーマー。あなたの何かの力ということかしら」
デスは言った。
「そんなの当たり前じゃないか」
リーマーは再び大声で笑った。
「ヒトになるなら条件を出そう」
「急に何で?」
「お前たちは面白い。だから気が変わっただけだ。しかし、お前たちの家族の命と引き換えだ」
「できるわけがない」
ローズは言った。
「ああ!」
ギルは言った。
「そうでヤンス!」
クッスは言った。
「そうだよ!」
スロスは言った。
「ふん! 甘いわ! 遅いわ! お前たちはもう俺様の術中なのさ!」
リーマーは言った。
「何っ」
ギルは言った。
「なんとも無いじゃない」
デスは言った。
「ああ! そんなハッタリに騙される俺たちじゃないぞ!」
ムリドは言った。
「果たしてそうかな?」
リーマーは言った。
「私が相手すれば一瞬よ」
デスは言った。
「任せた!」
ムリドは言った。
「あんた男でしょ!?」
「ああ、だからどうした?」
「どうしたって? 戦いなさいよ」
「何故? 俺は神様の方が強いと思うが」
「そ、そ〜う?」
デスは照れたように頬を染めた。
「そりゃそうだろう。男か女か以上に神様だろう!」
「なら、私がやっぱり相手をするわ!」
「ドサリ」と音がした。
「何?」
デスは言った。
続いて「ドサリ」また「ドサリ」と音がした。
「オイ! しっかりしろ!」
ムリドは言った。
「全部あんたのせいだ!」
ローズは聞き覚えのある声で目を覚ました。
「私は悪くない! ローズ! あんたのせいよ!」
その声の主は、
「ユリ?」
ローズは言った。
「当たり前でしょ?」
その姿はヒトの姿。
翼もなく、地に足つけて面と向かって話をしていた。
「私は悪くないの!」
「何の話?」
「とぼけないで!」
「え?」
「ずっと辛かった。何でわかってくれないの?」
ユリの目には涙が浮かんでいた。
「どうして欲しかったの?」
「私と来て、ついて来て」
「うん」
ローズはユリについて行った。
暗い暗い先の見えない道を進んで行った。
どれだけ経っただろう? 未だ目的地には着かない。でもそれがユリの欲していたものなのかもしれない。そう思うとローズはユリとは逆の道、他の道には行けなかった。
「オイ! 起きろ! 起きるんだ!」
ムリドはローズたちよ体を叩きながら叫んだ。
「起きないぞ!」
ムリドは言った。
「こっちも」
デスは言った。
「ふはははは! 当たり前だろう? 俺様の技だよ。……しかし」
リーマーは言った。
「何故だ? 何故眠らない?」
「私にあんたなんかの何かよくわからないことが効くわけ無いでしょうが!」
「よくわからんが、お前には負けん!」
ムリドは言った。
「何故? 何故高々ヒトが! 今、このヒトの世で寝てないのはお前らだけだぞ!」
リーマーは鼻息荒く叫んだ。
その鼻息は白く目に見え、黒かった顔が赤みがかっていた。
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