第11話 力及ばず、手は届かず

 ユリはこれ以上ローズたちの相手をすることが面倒になった。

 接近の危険と自らの攻撃力の貧弱さからここに自分がいる意味を見いだせなくなった。

「フィー」と口笛を吹き、地上へ行かせていた別の悪魔たちを呼び出した。

 都合よく彼らは人質を抱えて飛んできた。



「あっ!」

「どうしたんだい?」

 ローズの声にアルデンテスが反応した。

 目線の先にはユリとさらに4つの影があった。

「ギル! クッス!」

 ローズの話に出てきた少年がいることをアルデンテスはローズの言葉で察知した。

「あれ、アルデンテスに似てません?」

 モンクは言った。

 ローズの話に出てきた。死んだアルデンテスは本物だった。

 信じていなかったアルデンテスはそれよりも今の状況判断に思考を費やした。



「私を追うならこの子たちをどうにかしてからね」

 ユリはその言葉を残してローズたちに背を向けた。

「待って!」

 ユリは振り向くことなく、また、ローズの言葉が届くこともなく小さな点へと変わってしまった。

「へへへ、逃したやつがここに居たとは」

「チャンスだぜ」

 本物のアルデンテス、本物の警察かと見間違うほどの見た目を持った影はギルとクッスを抱えて空高くあった。

「おおっと! 動くんじゃーないぜ!」

「……!」

 息を吸っていたローズに向けて放たれた言葉だった。

「見てたぜ、何か怪しい」

「だな、その赤毛の女には喋らせるな!」

 ユリに向けた言葉が放たれていたことで能力がばれてしまったのだ。

「何かしようものならコイツラが大変なことになるぜぇ」

 ギルとクッスがいる以上ローズは何もできなかった。



 油断した。油断した。油断した。

 頭の中が後悔の念でいっぱいになっていた。

 ギルは自分の力不足に、何もできないことに今悩んでいた。

 ローズを守るために逃したのに自分の力不足でそのローズを拘束させてしまっていることがギルは悔しかった。

「オイッ!」

 ギルは言った。

「なんだぁ?」

「離せ!」

「離すわけないだろ!」

 反対側ではクッスも同じように動いて意識をそらさせていた。

 ローズが何ができるかわからない。

 ローズのために何ができるかもわからない。

 しかし、少しでも意識をそらすことができれば、何かできるはずだ。

 彼らにはそんなストーリーが見えていた。



 ありがとう。

 ローズは心の中で唱えた。

 今ならいける。



 アイツが来るまで、ヒエラルキーの頂点に居たのは、アイツじゃなくて俺たちだった。

 アイツが来てからだ。

 全部うまくいかなくなったのは。

 一、下っ端として雑に扱われ自尊心を傷つけられた。

 今はしかし反抗するときではない。

 実力で敵わない以上は気が熟すのを待つしかない。



 どうして俺たちがこんなことをしなくてはならない?

 ガキの相手なんて任せられなければならない?

 俺たちはそんなことをするために今ここに居るのでは無かったはずだ。

 それなのに俺たちはあくまでも下っ端であることに変わりはない。

 上に存在が居るのがこんなに不愉快か。



 悪魔たちは葛藤していた。



「お願いします」

 ドアイラトは言った。

「わかってる」

 ローズは答えた。

 今まさにギルとクッスが注意を引くことでローズから視線がそれていた。

「自由になぁれ!」

 ローズの言葉はドアイラトのときと同じように飛び、悪魔たちを通過した。

 そして、光に包まれて地面へと下降を開始、無事彼らは着陸した。

 見た目は成人男性のようなものへと変わった。

「自分の意思で動ける」

 警察の見た目の男が言った。

「ああ! 俺たちは解放されたんだ!」

 アルデンテスの見た目の男が言った。

「ありがとよ」

 男はそう言って去っていった。



 やられた。

 ユリにとってもドアイラト以外がやられることは想定外だった。

 しかし、ユリは自分で行動することを辞めていた。

 今攻撃する意思はなく、うごめく闇へと戻っていた。



「待ちなさい!」

 ドアイラトは叫んだ。

 無理して飛ぼうとするドアイラトをローズは止めた。

「何故です?」

「今のままではユリには勝てない」

 ローズは言った。

「何故です? 何故なんです? アタシの翼ですか? なら治してください」

「ううん。見えなかったの」

「え?」

「見えなかった。今、ユリに欠けているものが」

「じゃあ、あのときの言葉は?」

「当てずっぽう」

「……そうですか」

「元気になぁれ」

 ドアイラトの翼はみるみる内に華麗な状態へと戻ったが空気は重く苦しいものだった。

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