第10話 遭遇
ローズの中の可愛いの基準の1つがローズより幼い少女ということがバレてから間もなく、雷音が響いた。
視線の集中がローズから空へと移るとローズは安心して頭上を見上げた。
視線の先ではうごめく黒い物体から1つが急速にローズたちの方へと接近していた。
急に学校は瓦礫片へと変化しローズたちの方へと飛んできた。
「柔らかくなぁれ!」
ボムん、とした衝撃は怪我などをするものでなく豆腐をぶつけられたように瓦礫片が粉々になった。
接近者が学校を瓦礫片としローズたちのもとへと放ったのだ。
「そんな!」
そのものの手は怪しく光っていた。
「……ユリ……」
本来、紫に輝く球はローズによって学校に設置されるべき物だった。
今、やっとわかった。
これはあの少女が学校に設置したことで起こった事態だと。
しかし、ローズの信頼を得られず失敗を犯したのは自分の努力不足だろう。
ローズが設置していれば今頃世界はこんな絶望的状況に陥ることなく、もっと秩序付けられ、平和な生活を送れていただろうに。
だが、悔やんだところで現実は変わらない。
ユリには無かったはずの翼が生えていた。
片翼は女性の顔、もう片翼は男性の顔。
ローズはそれらの顔に見覚えがあった。
ユリに見せてもらった家族写真に写っていた人物にそっくりだった。
「何で?」
ローズはユリに向かって叫んだ。
「何が?」
ユリは答えた。
「何が? って今の状況はユリが作ったんでしょう? 何でこんなことにしたの?」
「あぁ、そんなこと。私はもうとっくに忘れてたわ。ただ有り余る力を使ってただけ。だから、邪魔しないで」
「そんなのできないよ!」
「何で?」
「私は死にかけてるの!」
「じゃあ、生き返らせたらそれでいいの?」
「違う!」
「なら、どうしろっての? 口に出すだけだして、案を出せないならだまってててよ!」
ローズはそれ以上ユリに何か言うことはできなかった。
「ローズさん」
話しかけてきたのは少女となったドアイラトだった。
「何?」
「私が飛びます。そうすれば口撃が届くはずです」
「そっか」
ローズは今の自分の能力でユリの状態を戻そうと試みるドアイラトの案にのった。
バサッ、とドアイラトの背中から先程までとは比べ物にならない美しい羽を生やすと両手でローズを抱えて飛び立った。
「チッ、ドアイラト! 私に逆らうの?」
「えぇ、アタシはもうあなたの下僕じゃない!」
ドアイラトのおかげでローズはユリに接近することができたが、しかし、ローズたちは飛んでくる瓦礫の回避で精一杯でユリの文字が、何が欠けているのかを視認できていなかった。
「見えましたか?」
ドアイラトはローズに尋ねた。
「ごめん。まだ」
ローズは残念そうに答えた。
「大丈夫です」
地上にいるときと違いいくら柔らかくしたところで瓦礫にぶつかってはひとたまりもない。
かわすしかないローズたちが不利なのは明らかだった。
これ以上の負担をドアイラトにかけたくなかったローズは、
「元どおりになぁれ!」
とやけくそでユリに向かって叫んだ。
しかし、ユリはなんでもないようにその言葉をかわし、これまで以上の大きさの瓦礫を放った。
「キャッ」
ドアイラトが叫んだ。
「大丈夫?」
ローズはドアイラトを心配したが、
「いえ、もう、ちょっと、限界です」
ローズたちは急速に落下していた。
「ゆっくりになぁれ!」
ローズの起点で地面に激突することなく着地することができたがドアイラトの翼はもう飛べるような状態には無かった。
「まだ、行けます」
ドアイラトは無理をしようとした。
「いや、休んだほうがいいよ」
とローズは止めた。
「アタシのことはいいんです。皆さんにかけた迷惑の分は取り戻さないと」
そう言うとドアイラトは1人で飛び立ってしまった。
身軽になったドアイラトは怪我をしながらも瓦礫を難なくかわしユリに接近した。
「小賢しい!」
吐き捨てるようなユリの言葉もお構いなしに最大の攻撃を加えたが、
「えいっ」
「見た目だけでなく、中身も可愛らしくなっちゃったみたいだね」
ユリに腕を振払われただけでドアイラトはローズたちの方向へ吹き飛ばされた。
「一緒にやられてしまえ!」
ローズは自らの口撃が攻撃以外にも使えることに驚いていたが、そんなことではいけないこともわかっていた。
今、ドアイラトはローズたちめがけて落下してきている。
「ゆっくりになぁれ!」
急な原則によりローズはドアイラトを受け止めることができた。
「ありがとうございます」
「いいんだよ」
ドアイラトの言葉にローズは笑顔で応えた。
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