第9話 反撃

「探したよ」

 どこからともなく「ニュッ」と白髪の男が現れた。

「……何で?」

「何でも何もいつまで経っても戻ってこないからお家に帰ったのかと」

「私が聞いてるのは」

「オレだって別にだらしない男じゃないよ」

 そう言って男はアロハシャツを捲りあげ腹を見せてきた。

 確かに細かった。

「いや、だから」

「まあ、まあ、そろそろだと思うからね」

「……何が?」

 男はローズの問いに答えることなく背中を押し始めた。

「自分で歩けます」

「そう?」

 警戒感を解くことなくローズは学校を目指した。

「なんか、冷たくない?」



「やっと来ましたね」

 学校にはモンクがいた。

「何してたんですか?」

「色々あって」

 ローズは答えた。

「話してくれないんだよ」

 男は言った。

「そうなんですか?」

「うん。どこか冷たいし、疲れてるのかな?」

「……実は……」

 モンクのようすからローズは男を本物のアルデンテスと判断し体感したできごとを話した。

「なるほどね。まあ、仕方ないか」

 アルデンテスは納得したようすだった。

「それより、早くしてあげてください」

 モンクは焦るように言った。

「さっきから何を期待してるの?」

 ローズは2人がローズを焦らせているように感じた。

「サクラさんのためなんです」

 モンクは指差した先を見るといつもの光景のようにサクラはドアイラトに追われていた。

「でも、私じゃ」

「できるんだよ。大丈夫」

 アルデンテスが自信たっぷりに言った

「だから何が」

 ローズには何がなんだかわからなかった。

「よく見てご覧」

 アルデンテスに促されもう一度ローズはサクラを見た。

 ドアイラト、サクラ双方に文字が明滅している。

 驚き、視線を戻すとアルデンテス、モンクの表面にも文字が、今度ははっきりと映っていた。

「これは……?」

「能力が発現したみたいですね」

「能力? これが」

「ああ、君はどうやらモンクの持っていた本の主人公と境遇が似ている」

「それは、たまたまでしょう?」

「スライムになったことも?」

「ローズは反論できなかった」

 ローズにはモンクの言うとおりどうしようもなく他のヒトには起こらないことに思えた。

「でも、文字が見えるからって、これで何ができるんですか?」

「口撃魔法だよ」

「は?」

 カクカクシカジカ説明されて納得した。

 文字は欠けているもので文字が見えているものは口撃――つまり、言葉に出すことでその欠けているものを補うことができる。

 主人公が敵を倒せなかったのは口撃は相手を満たすこと、危害を加えないことが原因だったということだ。

「え? じゃあ、可愛さが欠けてるってこと?」

 ローズの言葉にモンクとアルデンテスはポカンと口を開けた。

「いや、本当にそう書いてあるから」

 再度間をおいて2人は見つめあったあとで、

「やってみて」

 と同時に言った。

 信じているのか、信じていないのかローズには判断がつきかねたが、やると言っても手段がわからなかった。

 ただ、口撃ということ、言葉に出してみるしかという情報から実際に言葉にしてみるしか無かった。

「ローズ! 危ないからあんまり近づかないで!」

 サクラが警告してきた。

 しかし、ローズは構わず進んだ。

 そして、

「可愛くなぁれ!」

 と叫んだ。

 その言葉は口から文字としてドアイラトを通過した。

 文字は透けていて直撃はしなかったが、しかし、ドアイラトはそれによって動きを止めた。

 気づいたサクラは、

「え、ローズ。何したの?」

「さ、さぁ?」

 ローズ本人にもわからなかった。

 こんな、時々テレビで見るような、オムライスに使うような言葉で何かが変わるとは思っていなかった。

「見てください!」

 そう言ってモンクは地面にゆっくりと落下するドアイラトを指差した。

 体は白く発光し、徐々に小さくなっていた。

 次第に光はおさまりその体は少女のようなものへと変わっていた。

 ローズは自身に視線が集中していることに気づいた。

「いや、か、可愛いじゃん?」

 ローズの言葉に誰一人として返事をしなかった。

「ねぇ、何か言ってよ〜!」

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