第7話 我らは勇者団

 ローズとしてはかなり走ったつもりだったが一向にアルデンテスが見つかる気配はなかった。

 モンクのときはローズ自信が気絶していたり、アルデンテスと話をしていたりと時間をロスしていたことが原因で追いつくことに時間がかかったものと考えられたが今回はほとんど間を開けずに走り出したために追いつくものとローズは思っていた。他にも、アルデンテスの場合はモンクよりかは関わりがあるため探しやすいように思っていたがそうでもなかった。

 さらに、ローズの足かせとなっていることはそれだけではなかった。肉体のめまぐるしい変化に精神が摩耗していたのだ。

 生身、生身から魂のみ、魂からスライムの体へと一日で大きく変化する体に意識がついていっていなかった。

 そして実体を持ったことで魂だけのときには感じなかった疲労がローズを襲った。

 気づくとローズはアルデンテスとその場にへたり込んでいた。

 そこは空き地のようになっていて何に使われるのかは近隣住民のローズですら知らない場所だった。本当に空き地なのかもよくわからないごちゃごちゃと物が置かれたその場は1つの目印として集合場所に使うことが多かった。

 しかし、今日はそこに違和感があった。

 何かが違う。

 明確な差異がわかるわけではない。が、ローズは自分の興味を捨てられなかった。

「ひっ!」

 そこで血を流し倒れていたのはアルデンテスだった。

 大きく取り乱したローズは一歩また一歩とすり足で逃げるように足を後ろへ持っていっていた。

「君っ!」

「ビクッ」となったローズの背後には警察の姿があった。

「こんなときに何をしているんだ?」

「いや、あ、あの」

「答えられないようなことをしていたのか?」

「そういう訳じゃ。ただ校庭で球が光ってて」

「何を言っているんだ? どれ?」

「やめてください!」

 明らかに怪しい態度をとってしまったからか警察の目はローズを訝しむようなものへと変わった。

 それだけでなく、コソコソと誰かに連絡しているようにも見えた。

 これ以上止めるわけにもいかず、ズンズンと進む警察にローズはもう無理だと思った。

「これはっ! 君っ! どういうことか、あっ! 待て!」

 ローズは突然誰かに手を引かれた。

 見知らぬ男だったが、恐怖以上に助かったという気持ちのほうが大きかった。

「あなたは?」

「そんなのはあとだ! ゆっくりしている暇はない!」

 しかし、体を動かしていようともローズの思考は止まらなかった。「何故?」「アルデンテスは?」「このヒトは?」

 次から次へと湧き出てくる思考に1つも答えを出すことができずにそれでもローズは走った。

 不思議なことに警察が追ってくる気配はなかった。


「ふー、ここまでくれば安心だ」

「ありがとう」

 まるでアジトのようなところまでローズを案内してくれた男は笑顔でいった。

「俺はギル! ここの勇者団のリーダー! よろしく」

「……」

「! 君は勇者団のメンバーでない?」

「聞いたことないんだけど」

「ならば、説明せねばなるまい! 俺たちは」

「あー、やっぱり、お、思い出したかなー?」

「本当か! それはよかった。まあ、ゆっくりするような場所はないが、今はゆっくりしていてくれ!」

 そう言い残すとギルはアジトの奥の方へと入っていった。

「どうも、オイラはクッス」

 ニヤニヤ笑いを浮かべて出てきたのはローズよりも小さいクッスという名のヒトだった。

「どうも」

「巻き込まれちゃったね」

「え、えぇ。あなたも?」

「いいや、オイラはアイツの友だちだよ。まあ、よくわからないことも多いと思うけど面倒見はいいんだ。警戒しなくていいよ」

「へー」

 とてもローズにはそういうふうには映らなかったがクッスにとっては、そうなのかと思った。

「何か話したの?」

「うーん。勇者団のメンバーってこととか?」

「あー、それはまあ、そういうことにしておいてやってくれ」

「そんな気がした」

「でも、君もそれっぽいことを言ってたんじゃない?」

 ローズの中にも心当たりが無くはなかった。しかし、ローズにとってそれは事実だったため今の今まで気にかけていなかった。

「そうかも」

「アイツは一度仲間とみなしたら皆引き入れようとするんだ。それに地獄耳なんだよ」

「なんか言ったかー?」

 突然、ギルは遠くから声をかけてきた。

「別にー、ほらね?」

「ふふふ」「ははは」とローズはクッスと笑いあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る