第5話 スライム
「おーい」
ローズの声を聞いてアルデンテスは無事見つけることができたのかと認識した。が、そうではなかった。
「ガハア、ガハア」
ローズだけでなく奇妙なうめき声をあげているヒトと、息1つ切らしていないヒトの2人だけでなく、
「お前ら往生際が悪いぞ!」
という声も見た目も明らかに異質な存在までくっついていた。
「ちょっとこれどういうことよ?」
しかし、ローズはアルデンテスの問に答えることなく、
「お願い」
と運動が得意そうなヒトへと声をかけた。
その子が「わかった」と返事すると、
「僕に追いつくことができなきゃ他2人は絶対にムリだね」
と異質な存在を挑発した。
「何をー!」
と声に出すとそこから2人の追いかけっこが始まり、やっとアルデンテス、ローズ、そして本を持ちメガネをかけた茶髪のヒトの3人の間に安堵の空気が流れた。
「どうなってるの?」
最初に声を出したのはアルデンテスだった。
メガネのヒトは息を切らして声を出せそうになかった。
しかし、ローズはそれをお構いなしに、
「まず、こっちが、モンク」
と紹介を始めた。
「ドーボ」
「ど、どーも」
「で、空を飛んでるのが私を毒々しくした犯人で、追いかけられてるのが私の友だちのサクラ」
「ふむ、まあ、大体わかったかな」
「本当に!?」
ローズはアルデンテスの状況把握能力に驚いたように言った。
「まあね」
「じゃあ、モンク」
「はい?」
モンクの息が整ったところでローズはモンクを連れてきた本題に入った。
「私を元に戻して?」
「え、えーと、今すぐに?」
「うん」
「いや、それはー……ちょっと……」
「どれどれ、ふむふむ、なるほどね」
アルデンテスはモンクから本を奪い取ると勝手に読み始めていた。
「あ、ちょっとやめてって」
とモンクは言った。しかし、アルデンテスは、スッ、とモンクの奪取を回避した。
そして、
「ちょっとごめんね」
とのアルデンテスの言葉でローズは何故か急に前に押し出された。すり抜けるはずなのに。
モンクはそれをなんとか躱すと、
「なにするんですか!」
と叫んだ。
「いや、だって、魂は肉体にぶつけると」
「入るんでしょ! 知ってますよ!」
モンクは切迫した雰囲気だった。
「嫌なの?」
「嫌ですよ。自分以外の人格に自分をコントロールされるのなんて」
「そっか、じゃあ、残念だったね」
その言葉はローズにかけられた言葉だった。
「そこまでして肉体に戻りたくはないですよ。それに私自身が回復する話じゃないじゃないですか」
「それもそうだけど、そんな事書いてないんだよ。ね?」
「はい。ワタシもドアイラトに毒があるなんて書いてあった記憶はありません」
モンクは言った。
「……そっか」
ローズは残念に思ったが、仕方ないとも思っていた。何故なら「ユリ」の名前に反応し逃げられる攻撃から逃げようとしなかったのは確実にローズの責任だったからだ。
「でも、肉体に戻る方法ならありますよ」
「本当?」
「はい。丁度いいものを持ってましたよね?」
「何?」
「スライムです」
モンクは突然地面にスライムをばらまくと、
「ちょっと待っててください」
と言って何かを始めた。
「何が始まるんですか?」
ローズはものすごいスピードで本の内容を理解していく様子のアルデンテスに問うた。そもそも、常人離れのスピードで本の内容を理解しているのに上から目線でなくやり取りしてくれたことが不思議だった。
ヒトは見た目によらないとは言うが、アロハシャツにくせ毛の白髪に白ひげ、丸メガネの男性。というまるで遠くから見れば老人のような見た目であるからまさにそのとおりだと思った。
「ん? んー、まあ、できてからのお楽しみかな」
と何拍か遅れてアルデンテスは答えた。
「何でですか?」
「本人次第だから」
「えっ」
何となく嫌な予感がした。
「ちょっと見せてください!」
と言って本を覗き込もうとしたが、パンッ、と本を閉じられてしまった。
アルデンテスは人差し指を突き立てて、
「お・た・の・し・み」
と言った。
そんなアルデンテスの言葉に実体はないはずの体に鳥肌が立つ感覚があった気がした。
「できましたー!」
モンクはスライムを指差してそう言った。
おぞましいものではなかったことがローズにとっては救いだった。
しかし、
「これをどうしろと?」
スライムは地面にヒト型に伸ばされただけで特に何か特別なことをした様子はなかった。
「よく出来てるんじゃないかい?」
「えへへ、ありがとうございます」
とアルデンテスとモンクは言っているがローズには全く理解できなかった。
「準備はいいかい?」
「え?」
「3!」
「何?」
「2!」
「どういうこと?」
「1!」
「え、え?」
「GO!!!」
2人は交互にカウントダウンすると、ローズはモンクめがけて押されたときのように今度はスライムに向けて押し出された。
「イヤァーーー!」
べちょっ、という音とともにローズの体に地面に激突した感覚があった。それは実感が戻った瞬間だった。
立ち上がると体の前面にはボツボツとした感覚があった。
「うまくいったみたいだね」
「ですね」
いつの間にか意気投合している2人をよそにローズは自分の新しい体を確かめた。手をグーパーさせてみると思っていたほどスライムの感触よりも人間の皮膚の感覚に似ていることに驚いた。
「すごい!」
「オレもこんなときのために」
とローズの感嘆の中でアルデンテスはショルダーバッグの中をあさり始めた。
「どうよ!」
とローズの前に向けられたのは手鏡だった。そこに映る自分の新しい見た目はほとんどローズそのものだった。
「本物みたい」
「まあ、本物ではないんだがな」
「そうですね」
ローズの反応に対してさっきまでの熱が冷めたように熱量が感じられなくなった。
「え?」
と思い手鏡奪い取ってよく見てみると自分の肌と思っていたものは校庭の砂利のように見えた。
「嘘! 嘘!」
と払うと今度は手にくっつき、腕にくっつき、どうやっても払いのけることができなかった。
「まあ、スライムだからね」
「そこは我慢。かなぁと」
「イヤァーーー!」
今日何度目かのローズの叫びが響き渡った。
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