第2話 暗雲
翌日。
世界は昨日までの天気が嘘のように空は雲に覆われていた。
ただそれだけのことなら誰も気にすることはないだろう。
実際に曇り空が好きな人間だって居ることは否定はしない。
しかし、今のそれは曇り空といったものとは大きく違っていた。
「どうしたことでしょうか! 世界は終末の訪れのように視界が赤みがかっています」
ニュースでは繰り返しそのようなことが言われていた。
「大変だねぇ」
とポプは言った。言葉からは真剣さは感じられないが何も感じていないわけではないことはわかる。
そして、ローズは今の状態が自分のせいではないかと疑っていた。
正確にはローズとユリで校庭に紫に光り輝く球を投げたことが今のできごとの発端ではないかと思っていた。
何もそれだけで自責の念を抱くほどローズもお人好しではない。本当にそうだとしたらアルデンテスが一番悪いのだから、もちろん投げたローズとユリも悪いのだが。
原因はまさにそのユリとの連絡が朝起きてから一度も取れていないからである。
「騒がしいわね!」
マリーはローズの騒々しさに苛立ったようだ。
「ごめんなさい。でも、ユリと連絡が取れなくて」
反射的にローズはマリーに謝ってしまった。
「こんな状況だもの無理もないんじゃない?」
「でも、でも!」
「そんなに心配なら直接家に行けばいいじゃない」
「あ、そっか!」
そこからのローズは早かった。必要最低限の着替えだけを済ませて家を出ていった。
「いいんじゃないかい? 今の感じで」
ポプは言った。
「疲れるわ。母って」
マリーのその顔には笑みが含まれていた。
「ピンポーン。ピンポーン」
と何度呼び鈴を鳴らしてもユリだけでなくその家族すら一向に出てくる気配はなかった。
「どうして?」
ドンドンドン。と思い切りドアを叩いてみても返事も何も帰ってこない。
「えぇ?」
ローズは泣きそうな声を漏らした。不安が募るばかりだった。
ローズはどうしていいかわからなくなり、とりあえず家に帰ってもう一度連絡をとってみることを決めた。
道中。
「おや、お嬢ちゃん。奇遇だね。学校は? 今日は休校かい?」
話しかけてきたのは男、アルデンテスだった。
「あっ!」
ローズは混乱した。何から手をつけていいのかがわからなくなり、手をグーパー、口をパクパクさせた。
「……!」
できたのは、ただ言葉を発さずにアルデンテスをにらみつけることだけだった。
「ど、どうしたんだい? 何かあったのかい? あ、そういえば、球は置いてくれたかい?」
「そう、それです!」
「どれだい?」
「球です。あれは何ですか?」
「何って言うと別の可能性を示す。占いの道具みたいなものなんだが」
「それのせいで友だちが見つからないんです!」
「え? もしかして、今の世界の視界が赤い状態がオレの渡した球のせいだって言うのかい?」
「そうとしか考えられません! だって、まだ朝なのに、平日なのに、家に居ないなんておかしいじゃないですか!」
「ちょっ、お、落ち着こうよお嬢ちゃん。親戚に何かあったのかもしれないだろう?」
「落ち着いていられません!」
「わかった。じゃあ、わかった。百歩譲って、球が原因で今の状態にあるとしよう」
「はい」
「それならば、このスライムを球にぶっかければ大丈夫だから」
「そんな話を信じろと?」
アルデンテスの話は明らかに怪しかった。
球で一度信頼を失っているにも関わらず自分の差し出す道具で解決できるというのは何かが変ではないか?
確かに、現象の原因を作った人間のものが一番かもしれない。それに、他に対応策はありそうにもない。
「じゃあ、何なら信じられるんだい?」
逡巡の末、
「いえ、信じます」
そう言いローズはアルデンテスからスライムの入った瓶をひったくり学校に向けて走り出した。
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