第9話 カラー
それぞれの色があって、どれだけ頑張っても他の色にはなれないけれど。
「なおくん。別れたい……?」
私は、別れたくない。
でも、別れたいなら、引き止められないから。なおくんのためなら。
全部目から漏れている。
「加奈子、別れて。」
急いで後ろを見る。
「……っ。」
男だって泣く。だけど、それは見せてはいけない、というしきたりに捕われ出したのはいつだっただろうか。
内緒にしなくてはいけないこと。
心の奥底で思っていること。
全部言ってはいけない。そういう世の中になってしまって。その人のためなら本当のことは言ってはいけない。
「じゃ。」
小さい や を震わせているのにヒールを一定リズムで刻んで消えていく。
タン、タン、タン、タン……
その音は
だんだん小さくなっているのに、
僕の心を
どんどんと闇の方に引きずって行く。
涙腺から体の水分という水分を
どんどん押し流そうとする。
僕じゃ加奈子に相応しい色になりえない。加奈子の涙を見て、よりそう思った。
親しい人をクビにしてまで自分が生き残るという
選択肢。
純粋だった心を汚してまで、ここにという
執着心。
そこまで僕にできるだろうか?
ー否ー
釣り合わない。
いつも強がる加奈子が今も強がって、僕が辛いことから逃げようとしているのを、よしとして。
自分の意志をいつでも押し殺して。
これからもそう生きていくんだろうか?
ただそれだけが頭の中にこびり付いて。
いつまでもいつまでも
嫌な感情とか淡い モヤ が心の中で渦巻いて
カラフルになって
ゴチャゴチャになって
朽ちて消える。
「加奈子!」
「……?」
「僕、大人になりたい。」
「……うんっ。」
大人の世界は苦くて苦しい。
~完~
ダイアモンド はすき @yunyun-55
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