第191話 一行怪談191

 棺桶に眠る父を火葬した後に残った物は遺灰ではなく、無数のカブトムシの幼虫だった。


 母からの仕送りには、現金、衣類、野菜やレトルト食品といった食べ物の他に、裏面に「あの時の罪を覚えていますか?」という文字が書かれたカブトムシの折り紙が入っている。


 子どもの頃に捕まえたカブトムシを飼育して二十八年、今日もそのカブトムシは与えられたゼリーを元気に食べている。


 カブトムシだけが群がっている木の下を掘ると、生後間もない赤子のものと思われる人骨がゴロゴロと転がっている。


 兄が捕まえたカブトムシは、小さな声で「助けて」と確かに叫んでいたのだが、兄は容赦なくそのカブトムシを踏み潰し、その翌年、兄はタンクローリーのタイヤに踏みつぶされて短い生涯を終えた。


 弟がプレゼントに買ってもらったカブトムシは、夜中になると弟の首筋に噛み付いて血を吸い上げるので、弟は常に貧血の状態だ。


 カブトムシが出てくる夢を見た翌日は、頭の中にカブトムシが詰められた動物の死体が近所のあちこちで見つかる。


 カブトムシのフィギュアが枕元に置かれているのを見つけた少年はその夜、右手の小指だけを残して失踪するらしい。


 姉夫婦の子どもは幼い頃から、カブトムシの幼虫だけを食してすくすくと成長している。


 妹の額に生えたカブトムシのような角から、毎年夏になると小さな幼虫がその角から生えてぶらぶらと揺れている。

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