第190話 一行怪談190

「お前が生まれた時、お前は巨大なムカデの姿をしていたが、年月を経るごとに人間の姿に成長したから、処分をせずに済んだんだよ」ということを、成人を迎えた誕生日に両親に告白され、最近私の腹にムカデの足のようなものが生えているとは、打ち明けることができなかった。


 ムカデを使って蠱毒の真似事をした友人が歩いた後には、ムカデの死体がいくつも転がっている。


 ムカデの足をちぎった幼い甥はその翌朝、何者かに両足を引きちぎられた状態で冷たくなっていた。


 何度も見るが途中で目が覚めてしまう夢に出てくる山の中に入ると、頂上にいた人の背丈ほどもある大きなムカデに、「ようやく私と結ばれる決心がついたのだね」と囁かれ、いつか見た夢の最後でこのムカデと祝言を挙げたことを思い出した。


 祖母がおやつによく作ってくれたムカデの唐揚げを食べ続けたせいか、私と口づけを交わした男は皆、苦しみのたうち回って死んでしまう。


「あんなことをするんじゃなかった」と泣きながら生きたムカデを貪る男は、彼の妻が自殺した後から、生きたムカデ以外に体が受け付けなくなってしまった。


 夫が極端にムカデを嫌う理由が気になり彼に尋ねると、「爺さんの葬式の間中、死んだ爺さんの口から何十匹も生きたムカデが出てきたからさ」と、苦々しい表情で答えてくれた。


 幼い姪のオムツを交換するたび、排泄物に混じってバラバラのムカデの死体がオムツに広がっている。


 夢に出てくるムカデの顔が知人のものになっていた翌日、その顔になっていた知人は必ず、不慮の事故で亡くなるのだ。


 息子が描く私の絵は、人間の顔にムカデの体をしている。

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