第176話 一行怪談176
曰く付きのスポットを自転車で通り過ぎてからというもの、自転車に乗っている時だけ地面に私の影が映らない。
タイヤが曲がったぼろぼろの自転車が近所を独りでにゆっくりと走り、次はだれが連れて行かれるのかと、皆戦々恐々としている。
祖母の口から発せられる自転車のベルの音が鳴り止まないので、そろそろ自転車を買い替える頃合いだろう。
近所の西村さんの自転車のかごには、今日も死んだお隣さんの生首が入っており、近所中の家を恨みがましそうな目で睨んでいる。
朝、古ぼけた赤い三輪車が玄関の前にある家は、家で一番小さい子どもの小指を山に埋めるというのが、この地域の習わしだ。
近くの墓の前を自転車で通り過ぎる際、後ろの荷台が重く感じた日は突然大金が家に舞い降り、逆に軽く感じた時は思わぬ出費があると、我が家では代々言い伝えられている。
我が家で代々使われている三輪車は、子どもが三輪車に乗っている間にだけ、おかっぱ頭の女の子がどこからともなく現れ、羨ましそうな表情で三輪車の後をついていく姿を見ることが度々ある。
自転車に乗っている友人の背中には最近、老人のようにしわくちゃな顔の赤子のようなものがおぶさっているため、その赤子のようなものとなるべく目を合わせないようにしている。
マンションの自転車置き場にいる背の高い、赤い髪の女に話しかけられた時は、「私はあなたの家族にはなれません」と答えられなければならない。
自転車のペダルが重く感じた時、私は自転車のベルを三回鳴らしてから「連れて行きませんよ」と小声で呟くと、次の瞬間にはペダルをすいすいこげるようになるのでおすすめ。
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