第175話 一行怪談175
「母の失望した顔は何よりも美しいので、残しておきたいと思ったのです」と、自身の母親の顔の皮を剥いで殺害した男は、恍惚とした表情でそう供述した。
あらゆることに失望し、ビルの屋上から投身自殺を図ったが、「命を粗末にした罰」として延々とビルから身を投げ続けることを神から言い渡され、そんな神にも失望しながら今日もビルから飛び降りる。
この程度のこともできないのか、とターゲットの生首を抱えて困り果てている息子を見て、この子の将来に失望した。
「お前には失望した」と呆れたように言う父に、「まあ、あなたは本当の父親ではないから、あなたに認められなくても大丈夫」と言いたいのをその場ではグッと堪え、いつ頃その事実を伝えたら父に打撃を与えられるか、と裏で母と相談している。
人類に失望した神は大災害を起こして人類を滅亡させた後、再び新しい人類を作り出している最中だ。
挨拶をしてくれた近所の人を無視する娘に失望し、「挨拶ぐらいしなさい」と娘を叱ると、「生きている人間と幽霊の区別もつかないあんたに言われたくない」と、娘は冷ややかな目で私を見た。
ここ最近はラップ音しか心霊現象を起こさない地縛霊に、「頼むから失望させないでくれ」とため息をつくと、地縛霊は泣きそうな顔で私に「すみません」と頭を下げた。
「周りの過度な期待に応えようとするたびに失敗する私を失望した表情で見る周りの人間が悪い私は悪くないあいつらが悪いんだ私は悪くない悪くない……」と職場で刃物を振り回して十数人を殺傷した男は、今日も病院のベッドの上でぶつぶつと呟いている。
「失望も何も、あなたには最初から何も期待していないよ」と私を馬鹿にしていた彼女が、今は私の下で恐怖に歪ませた顔で事切れているのを見て、こちとらこっちの才能はあるもんでね、と心の中で吐き捨てつつ、死体の処理に必要なものを買い出しに行く。
浮気もろくに隠せない夫に失望しつつ、今朝から挙動不審の夫の姿を見て、「愛しの浮気相手ちゃんは、今はあなたのお腹の中よ」と種明かししてしまいたい。
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