第153話 一行怪談153

「誰かの寝息が聞こえる」と怯える妹の言葉に耳を澄ませると、確かに天井の隅から誰かの寝息が断続的に聞こえている。


 幼い頃、風呂場の浴槽で父とふざけて潜水ごっこをした時に、お湯の中で目が合った女が、友人に誘われた合コンの場に参加しており、私と目が合うと「久しぶり」と笑った。


 大きなテディベアは娘のお気に入りだが、そのテディベアは夜中に時々、隣で眠っている妻を犯しており、やがて妻の妊娠が発覚した時に、「弟を連れて来てくれてありがとう」と娘は笑ってテディベアを抱きしめた。


 買い物から帰って冷蔵庫に買った食材を入れていると、飼った覚えのない卵のパックがエコバッグから出てきて、驚いて卵パックを床に落としてしまうと、割れた卵の中から小さな産声と胎児らしき肉塊が姿を見せた。


「寝言がうるさい」と兄から文句を言われたので試しに寝言を録音し、翌朝になって録音を再生してみると、あの日、彼女を海に捨てた時の私の行動を詳細に説明する彼女の声が流れ出した。


 庭にいる飼い犬がずっと吠え続けているので一度注意しようと庭に出ると、血まみれで倒れている飼い犬の隣で、去年死んだはずの私のストーカーが飼い犬のまねをして吠えていた。


 飼い猫が私のそばに来ようとしない時は、人型にかたどった白い紙をナイフでばらばらに刻むと、飼い猫はすぐに甘えた声を出して私の足にすり寄ってくるので、非常におすすめだ。


 やけに弟が癇癪を起こすので訳を聞くと、「だってみんなの顔が変だもん」と泣かれたので、そんなわけないと弟と一緒に鏡を見ると、なぜか弟だけ鏡に姿がうつらない。


 最近になって気づいたことなのだが、私が家族だと思っている人たちは背中から一本の腕が生えており、私の背中からは一本の足が生えているので、私は彼らとは血がつながっていないのではなかろうか?


 先ほどから同一のアカウントから、「その話は私が体験したことです」と私の創作した怪談話に感想を送り続けられている。

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