第122話 一行怪談122

 食べ慣れた父の脇腹の肉を削ぎ落としたステーキは、いつも美味しい。


 私が買うメロンの皮の表面にはいつも「食べないで」という文字が浮かんでいる。


 ヘリコプターが次々墜落しているのに、どこからも衝突音は聞こえない。


 食卓に運ばれてきたのは、見慣れた指輪を嵌めた白い手を煮込んだもの。


 家に帰ってきた私を出迎えた愛犬の口から、別れた恋人の顔が覗いていた。


 私が野良猫を拾ってからというもの、家族の挙動が猫のものに変わっていく。


 弟の目からこぼれ落ちたのは、丸々と太った蛆虫の塊。


 夜中に物音がするので台所を覗くと、母が延々と包丁をまな板に打ち付けていた。


 スマホの着信履歴は、死んだ家族の携帯番号で埋まっている。


 兄が記憶を取り戻す前に、裏庭の死体を全て兄に食べさせなければならない。

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