第119話 一行怪談119

 コンロの火を点けると、なぜか肉が焦げる臭いがする。


 友人の傘は、いつも獣の唸り声がして気味が悪い。


 夫の電話番号は、亡くなった元恋人のものと全く同じだ。


 祖父の茶碗によそわれた白飯は、数分も経てば真っ黒に焦げてしまう。


 姉の鞄から出てきた鏡は、なぜか姉の同僚の部屋を映している。


 家のトランプには一枚だけ、「0」と白い文字で書かれた真っ黒なカードがある。


 日焼け止めを毎日縫っていると、皮膚が透けて筋肉が見えるようになってきた。


 カップラーメンを食べても食べても、中身が減らない。


 しゃもじを水でぬらすと、ゴボゴボと水に溺れる人間の声をあげる。


 雨で濡れた靴をドライヤーで乾かすと、灰のようにぼろぼろと崩れ落ちた。

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