第95話 一行怪談95

 頬に深い傷跡がある叔父は傷ができた理由を教えてくれないが、毎晩伯父の部屋から聞こえる亡くなった祖母のか細い悲鳴が関係しているのだろうか。


 映画館で上映されている最中に前の席の客がスマホを弄っているようで邪魔な光が見えるのだが、抗議の意味で前の席を蹴った時に光っているのは客の頭だと気づいた瞬間、客がこちらを振り向いた。


 クラスメイトの一人が両手を包帯でぐるぐる巻きにしているのだが、一人の男子がふざけてその子の包帯を無理やり外した途端、男子の顔は青ざめて訳の分からないことを叫びながら窓から飛び降りクラス中が大騒ぎする中、その子はやれやれといった表情で隙間から見えた黒い何かを隠すように包帯を巻きなおした。


 温めているレンジから聞こえるのは、か細い猫の鳴き声。


 足元でまとわりつく半透明の潰れた子どもの残骸を乱暴に蹴散らす。


 蜜柑の缶詰から出てきたのは、シロップ漬けにされた大量のへその緒。


 久しぶりに本棚の小説を開くと、無数の羽虫が飛び立ち残ったのは白紙の頁のみ。


 深夜のテレビ画面に映る灰色の帽子を被った子どもの顔を見た人は要注意。


 廃墟から聞こえる「誰かいるのかい?」という声には返事をしなければならない。


 最近かかってくる電話番号は全て、亡くなった姉の電話番号ばかり。

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