第93話 一行怪談93

 窓から見える隣の家の屋根にある日から靴が一足乗っているのを見つけたが、その日から隣の家に不幸が立て続けに襲いかかり、あの靴の持ち主は隣の家の主人をまだ許していないのだろうと近所で噂になっている。


 レトルトのカレーを湯煎していると、沸騰した鍋の中に入れた袋から「熱い熱い熱い!」という悲鳴が轟いて、まるであの時の子どもみたいだなとぼんやり思った。


 レストランで出された水だが数mm程度の何かが水面に浮かんでおり、「こちら、レモン汁に漬けた小人を浮かべております」とウェイターが恭しくお辞儀した。


 ステーキを注文すると、あの女に見せられたエコー写真と同じ体勢をした胎児のような肉塊が、小さく切り分けられ鉄板で焼かれていく。


 同僚からもらったお土産の包み紙を開くと、「当たり!」というメッセージカードと妻に送った結婚指輪がはめられた指が入っていた。


 オフィスでシャンシャンと鈴が鳴る音がしたら、それから仕事を終えるまで絶対に声を出してはいけないというのが、この会社のルールである。


 いつも暗い顔をしている義姉が突然、「分かった、私頑張る!」と笑顔を浮かべたと思うと持っていたボールペンを頭に突き刺し、それ以来義姉は打って変わって笑顔が絶えない人となったが、兄は彼女と離婚したがっている。


 新しく発売されたポテトチップスの新商品は『嘘つきの舌炒め味』で売れ行きは実に好調なのだが、食べた人の舌が嘘をつくたびに大きな火傷を負うという話がネットで広まっている。


 肝試しに行ってからのここ数日の記憶がないのだが、会う人全てが私の後ろを見て「可愛そうに」と言葉を漏らす。


 妹の影が妹の動きより一拍速いことに気づいてしまった。

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