第92話 一行怪談92

「娘を誘拐した」という言葉の後、犯人の断末魔しか聞こえなくなった留守電を削除しつつ、また娘が散らかした死体をどう片付けようかと頭を悩ませた。


 ゲームを朝方近くまでやっていた息子の様子を見に息子の部屋に向かうと、テレビ画面に閉じ込められた息子が必死の形相で画面を叩いていた。


 蔵から見つけた古いアルバムを開くと、手足が二本ずつしかない頭が一つの生き物を見つけ、これが太古の昔に滅んだ人間かと感動した。


 新しい石鹸を使うようになったが、この石鹼はどんな汚れも落としてくれるだけでなく、邪魔な皮膚や筋肉をも削ぎ落として綺麗な骨を見せてくれる。


 よく見ると体のあちこちに文字のような痣が浮かんでおり、それらを並び替えると「ハヤクアイツヲコロセ」という文章になり、私は当初の目的を思い出した。


 叔父はどんな相手に対しても偉そうな物言いをするので、脅かすつもりで髪の長い女の格好をして叔父の部屋に隠れていると、私を見つけた叔父は「あの時殺したはずなのに」と急に取り乱して部屋を飛び出して行方知れずになってからというもの、時々夢の中に出てくる叔父は髪の長い女に抱きしめられて、「助けてくれ」と叫ぶばかり。


 私しかいない部屋の中で子どもたちの笑い声と走り回る音が響き渡り、耳を塞いで「ごめんなさい」と繰り返すことしかできない。


 妻が最近私を避けるようになったので浮気を疑ったが、「つい我慢できなくて」と涎を垂らして笑う妻が私に包丁を振りかぶるのを見ながら、私は妻にこんなにも愛されていたのかという喜びで胸がいっぱいだ。


 夫の帰りが遅いので心配していたが、帰ってきた夫は顔のパーツの位置が少し違うだけで今までよりも優しい人になっており、正直満足している。


 ところで、あなたの影から笑い声が聞こえるのですが、特に頭の怪我に注意してくださいね。

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