第86話 一行怪談86

 姉は二十歳の頃に神隠しに遭い数年後に山から戻ってきたのだが、それから事あるごとに「私は選ばれなかったの」と悲しそうに目を伏せ、数日後に首をつって以来、我が家の家から姉の泣き声が聞こえるようになった。


 祭りの出店の一つに、「目玉当て」という店を見つけた。


 曾祖父の仏壇から、なぜか曾祖母の怒鳴り声が夜な夜な聞こえてくる。


 実家の畑の野菜泥棒がある日ぱったり止んだのだが、それ以来畑の方から「勘弁してください」と泣きじゃくる若い男の声が夜中聞こえてくる。


 オカルト好きな友人がある魔術を試しているそうだが、その友人の母親の指が日を追うごとに短くなっている気がする。


 兄の恋人は我が家の食卓に並んだ料理を見て泣き出したので驚いたなと、髪の毛のパスタや指の照り焼きを片付けながら思う。


 弟は私のことを前世で失った恋人だと思い込んでいるようだが、私はお前の恋人に殺されたお前の姉だよ。


 携帯の電源を消すと、若い女の断末魔が部屋中に響き渡った。


 私が住んでいるアパートの隣人は、「なんで生きてるんだよ!」と私を見るたびに絶叫する。


 自転車に乗って走っていると、耳元でケタケタと笑う老婆の声が響いている。

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