第87話 一行怪談87

 いじめの主犯だった同級生が下校中に何者かに腕を食い千切られたらしいとの噂を聞いて、家の近所の野良犬は私によく懐いていたからなあと、半透明の犬の頭をそっと撫でながら考える。


 最近は近所でボヤ騒ぎが多いが、そう言えば伯父がマッチの箱を弄っている時間にボヤ騒ぎが起こっている気がする。


 親に買ってもらったゲームを数時間で飽きてしまいどうしようかと悩んでいると、ゲームの画面に砂嵐が流れたと思うと「捨てないで……」と消え入りそうな女の声が頭の中に聞こえてきた。


 私の姉が隣でうなされているので何事かと振り向いてみると、壁から生えた男十本もの腕が姉の体に巻き付いていた。


 ネットオークションで私の卒業証書を出品していた者のIDを調べると、私が幼い頃に近所に住んでいたおばさんの名前と一致した。


 上司にパワハラを受けている友人がある日急に明るい性格に戻ったので理由を聞くと、「上司が突然退職届を出した」という喜びに溢れていたそうで、友人に元気が戻ってよかったと思いつつ家に保管している藁人形の始末を考える。


 横断歩道の真ん中に子どものものと思われる帽子が落ちているが、雨の日でも雪の日でも帽子が汚れる様子は一切ない。


 ニヤニヤと笑う天井の顔共が鬱陶しいので適当に漢字を並べた札らしきものを天井に張ると、顔共は床に移動して今度は目を吊り上げて私を睨み続けている。


 面白そうという理由で肝試しに参加した弟が家に帰ってきたが、弟の顔がどうも父幼少期の顔に変わってしまったように思える。


 近所のコンビニに立ち寄ると、頭にドライバーがいくつも刺さった女が白目をむいて「イラッシャイマセ」と私を出迎えた。

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