第85話 一行怪談85
近所の古本屋に、数十年前に刊行された私の孫の半生を書いたエッセイが売られていたのだが、孫は先月生まれたばかりだ。
友人から拝借した煙草を吸うと、「燃えたくない、燃えたくない……」という断末魔が頭の中で響く。
病院の待合室で待ち続けてもう三年が経つが、未だに名前が呼ばれる気配がない。
放蕩癖がある甥から送られたビデオレターには、私好みの女が椅子に縛り付けられ泣きわめいている映像が映っており、やはり甥は私の好みをよく理解していると、上機嫌でテレビから聞こえるチェーンソーの音を楽しむ。
姪はよく「私はこの家の人間じゃない」とわめくが、姉の心臓と義兄の血と肉片を混ぜ合わせて作ったのだから血は繋がっていると教えるべきか。
吐き気に襲われた弟の背中をさすってやると、弟は口から全ての消化器官を吐き出し、「姉ちゃん、これ戻して」と目で訴える。
夫は昔、相当な恨みを買ったようで、今も夫の枕元で顔が潰れた何人もの女たちが、うなされる夫に恨み言をぶつけている。
妻は再婚相手を探していた時、「この人なら小指を交換しても理解してくれる」という理由で私を選んだらしい。
少々自信過剰過ぎる友人が近所の問題児の親と話をつけると息巻いているのだが、彼の守護霊が彼から離れようしているのを見て縁切りの決心がついた。
息子と娘が、どちらが私の遺体の処分をするかで言い争っているのを、私を殺しても兄妹仲はよくならなかったかと情けなく思う。
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