第84話 一行怪談84

 死者が見えるという儀式を試したところ、私以外の人間全員が手の甲同士を叩いて拍手をしていることに気づいた。


 塞ぎ込んでいた友人に「みんな何かしら辛い思いをしているのだからくよくよするな」と言った翌日に友人は自殺し、友人の遺書に私の言葉が引き金だったと書かれていたのが分かってから、周囲に非難され続け眠れなくなった夜、布団に潜っていると天井に友人の顔が浮かび上がり「おいで、おいで」とニヤニヤ笑う。


 私の家は自殺の名所として有名で、今日も風呂場に一つ、台所に一つ、リビングに二つ死体が転がっている。


 私の家族の葬式に参列し、「これが私の気持ち」と私にリンドウの花を渡した親友。


 腹が減ったので冷蔵庫を覗いてみたが、頬肉と目玉、舌と耳たぶしかなかったので、仕方なく鉈を手に取り仕事帰りのサラリーマンを狩ることにした。


 娘はイライラした時に指をしゃぶるのだが、今はうーうーと唸りながら冷たくなった夫の指をしゃぶっている。


 クローゼットがある部屋を借りたのだが、夜中にクローゼットからビリビリと服を破る音が聞こえ、朝クローゼットの中を見ると服がボロボロになっているため、結局新しく箪笥を買う羽目になった。


 ガタンゴトンと窓の外から電車が通る音が聞こえるが、窓の外から見えるのは墓地だ。


 突然雄たけびを上げた息子が床でのたうち回ったかと思うと、蹲った息子の腹に裂け目ができ、そこから腕がゆっくりと伸びてきたのを見て、今年もそんな季節がやってきたかと酒を片手に思った。


「ショートパンツを履きたいけど、太ももから下がないから意味ないよね」と寂しそうに笑う彼女を見て、彼女に似合う服を上げようと決心した。

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