第71話 一行怪談71

 葡萄の粒一つ一つが口が裂けた人間の顔に見えるので、私は葡萄を食べられない。


 私が使う通勤電車の車窓からは、朝は高層ビルやマンションが立ち並ぶ風景が写り、夜にはぼろぼろの廃屋がぽつりぽつりと並んでいる。


 人気のアーティストの最新曲は、「ボーカルの歌声にハモるように女の呪詛の声が聞こえる」と言ったコメンテーターがその場で溶けてしまったので、かつてないほど売れているらしい。


 望遠鏡で満月を見ると、いくつものクレーターが同時に瞬きするのが見えた。


 新しい靴を履いてみると、歩くたびにブギュブギュと蛙が潰れたような音が響く。


 最近使い始めた鍋は「火加減が強すぎる」「もう少し強火にしろ」と顰め面で教えてくれるので、料理の腕がどんどん上がった。


 猫って液体って本当だった、だってこの間私のボールペンの替え芯の中に入ったんだもの。


 特撮が好きな息子のヒーローごっこに付き合っていたが、「パパ、ちゃんとやって」と息子が私の腹を叩いた瞬間、私の腹が爆発した。


 コーヒー豆を挽くつもりが間違えて昨日殺した恋人の指を挽いてしまったので、寝起きの悪さを何とかしないといけないとため息をついた。


「この世界から消えてしまいたい」が口癖だった友人の肌はどんどん透けていき、今では血液の流れも内蔵の動きもはっきりと分かるほど透けてしまった。

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