第72話 一行怪談72

 いつも定時で退社する同僚の後をこっそりつけると、上がってきたエレベーターの扉が開き、出てきた真っ暗な闇に包まれて同僚は消えていった。


 娘が描く私の似顔絵は、真っ青な丸の中に赤い点がひとつだけあるものだった。


 我が家で使う漬物石は、一族で一番老いた者の血を年に一度浴びせなければならない。


 息子はめったなことで笑わないが、私が虫を叩き潰した時はケタケタと大笑いをする。


 高利貸しを営んでいた友人は、顔がひどく歪んだ大量のお札に押しつぶされて死んでいた。


 姪は気に入らないことがあるとすぐに癇癪を起こすが、その時の泣き声は一万キロメートルも離れた私の家まで届くので勘弁してほしい。


 私のスマホは充電している間、待ち受け画面に髪を振り乱した潰れた顔の女が映っている。


 甥は今でも眠くなると額から一対の角が生えてしまうので、一族の秘密が知られる前にけすべきではないかと現在家族会議中だ。


 白湯を飲むと見たことがない景色が頭の中に浮かぶが、最近になって血だまりに浮かぶ複数の死体も見えるので、私の前世が犯した罪なのではないかと頭を悩ませるようになった。


 ポップコーンを作る機械を買ったのだが、コーンだけでなく爪や皮膚片でも作れることができると分かって大変愉しい。

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