第67話 一行怪談67

「私は彼女を傷つけるつもりはなかったのです」と自供する犯人の目からこぼれるのは、小さな小さな剃刀の刃。


 年齢を重ねるにつれてしわくちゃの老婆だった姉はどんどん若返っていき、今では胎児の姿まで戻ってしまった。


 ひき逃げの場面を偶然目撃してしまったが、轢かれた女は不自然に折れ曲がった手足を動かして逃げ去った車を追いかけて行った。


 テレビで芸人が谷底に向かってバンジージャンプをしているが、芸人が飛び降りた瞬間に谷底から伸びた真っ黒な腕が芸人を掴み、そのまま谷底へと消えてしまった。


 辞書には新たな感情を表す言葉として、私の名前が記載されている。


 風邪を引いた兄は熱にうなされると、いつもしゃがれた老人の声で「お前があの時あんなことをしなければ」と私を罵る。


 私に罰ゲームを無理やりさせた友人が次の日「もうしないから、あれをするのはやめて」と私に縋ったが、当の私はその間の記憶が全くないので正直当惑している。


 弟が骨折してからというもの、ティッシュが切れることはなくなった。


 私が芋ほりに参加すると、全ての芋は調理される時に苦悶の声をあげる。


 お腹を空かせた娘は自身の指をしゃぶっているが、そろそろ骨がむき出しになってきたのでやめさせるべきか。

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