第65話 一行怪談65

 腐る前にとこたつの上の蜜柑に手を伸ばすと、ギャッという鳴き声をあげて蜜柑はゴロゴロと転がって窓の隙間から逃げて行った。


 やかんに水を入れてコンロにかけると、毎度のように「熱い、熱い」とやかんが文句を垂れるのが鬱陶しくて仕方ない。


 店頭の雑誌を手に取り広げてみると、写真に写った人物全員と私の目が合っている。


 周りの人たちの揚げ足を取る友人が、両足をもぎ取られその足を油で熱せられた状態で発見された。


 餅が伸びに伸びて2mほど伸びても、一向に千切れる様子はない。


 私の腕のほくろは変わっている、埃や紙くずを乗せると瞬く間にほくろが吸い込んでいき、その大きさはどんどん小さくなっていく。


 ホッチキスの針がいくら使っても尽きることがないので遠慮なく使っていると、ある日姉が突然倒れ、病院の検査で骨密度が異様に低下しているのが判明した。


 今夜は月が綺麗に輝いていて、近くにある星を次々飲み込んでいるからだろうなと、星が悲鳴を上げて月に引き寄せられているのを見て思った。


 トースターの調子がおかしい、一ヶ月ほど前からトースターでパンを焼くと「逃げて」という焦げ跡がパンに着くようになった。


 最近鍛え始めている兄に理由を聞くと、「お前がいるからじゃないか」と私の背中に生えた翼をちらりと一瞥した。

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