第59話 一行怪談59

 薔薇のモチーフがあしらわれた姉の手鏡は、町で若い女性が行方不明になるたびにさらに赤く美しく色づく。


 苛立ちまぎれに机を蹴ると、「いたい!」と甲高い悲鳴が聞こえ、次の瞬間には机と壁に体を挟まれていた。


 胃腸の調子が悪いので病院に行くと、「説明がつきません」と困惑した医者に見せられたレントゲンには、胃腸どころか内臓が全くない空っぽな胴体だった。


 ある日、「もうお腹いっぱい」と呟いてからというもの、姉は二十年もの間、水の一滴すら口にしていない。


 我が家の結婚式の写真には代々、両目のあたりに真っ黒な穴が開いた坊主頭の男が参列者に混ざっているのが写っている。


 鉛筆削り器がひとりでに動く夜、町ではミンチ上に砕かれた人間の死体がゴミ捨て場で見つかる。


 妙に気分が落ち着かない日は、顔のパーツの位置を少し弄ってみると気分転換になるのでお勧めです。


 怒っている兄には近づかない方が賢明だ、以前兄の機嫌が悪い時に兄を揶揄った弟が、兄の腹にある大きな口に丸吞みにされたから。


 息子が好きな特撮に出てくる怪物たちの名前は、私が普段嫌っている人物につけたあだ名と同じだった。


 ドラム缶の中から、「あそぼうよ」と誘う去年亡くなった娘の声が響き渡る。

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