第58話 一行怪談58
長時間の陣痛に苦しんだ妻が命と引き換えに産んだものは、彼女が山に埋めた元夫の腕時計と妻の顔が真っ黒に塗りつぶされた証明写真。
電話越しの友人の声が割れてなかなか聞き取れないのだが、そう言えば先日亡くなった別の友人と電話した時もこうだったと気づいた時には、手遅れだった。
夢に出てくる人形が徐々に人間らしい質感になっていくのに比例し、私の体が徐々に陶器のような質感に変わっていく。
子どもが縁日で買った髑髏の指輪だが、その髑髏は私が幼い頃に見た母の頭蓋骨にそっくりだ。
雀の泣き声が嫌に近い場所から聞こえるなと思い目を覚ますと、私の布団の周りに何百という雀がけたたましく鳴いていた。
お腹が空いて仕方ない、冷蔵庫の中の食料を食べても、家じゅうの家具を食べても、逃げ惑う家族を食い尽くしても。
食卓に並ぶ蟹の爪が、どう見てもマニキュアを塗った人間のソレ。
今日は腕によりをかけて肉じゃがを作ってペットに与えても、怯えて箸を持とうともしないため、仕方ないので今夜も牛乳を与えるしかない。
通報を受けて駆け付けた警察が見たものは、ドロドロに溶けた肉塊が「助けて」と泣きながら爆発する場面。
ある日を境に、待ちゆく人たちの視線も、その人たちが持つ携帯のカメラも、防犯カメラでさえも、私をずっと追いかけてくる。
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