第35話 一行怪談35

 開けちゃダメと言われた部屋の扉を開けたらペットの犬の首があった、と泣く娘を見て儀式が失敗したことを悟り、娘を慰めるふりをしながら持っていた包丁を振りかざした。


 靴下を脱ぐと、中身があった。


 窓から見えるさかさまに空中に浮かんでいる彼女がいつ地面に落ちるのかを友人たちと賭けているのだが、このままだと三日後と言った私の負けだと溜め息をつく。


 飼っている猫の様子がおかしいので獣医に駆け込むと、猫の胃の中から人間の眼球が出てきたので獣医に訊かれたのだが、心当たりがあるとも言えずあいまいに笑ってごまかした。


 夜中に和太鼓の音が聞こえるのを不思議に思いカーテンの隙間から外の様子を窺うと、白装束の集団が太鼓を叩いて道路に行列を作っていたのだが大口を開けて笑う彼らの笑い声がなぜか聞こえない。


 何もかもが嫌になりふて寝をしていると、「もう少し頑張ってみようよ」と若い女の声が聞こえ、天井から伸びた冷たい手が私の首を絞め始めた。


 テレビをぼんやりと眺めていると、「続いては我々のために犠牲となってくれる生贄の解体ショーです!」という司会の声の後、テレビを見ている私の背中が画面に映った。


 「君の子だよ」と微笑みながら私に赤ん坊を差し出す男だが、私には恋人ができたことが一度もなく、男の顔は私が幼い頃に死んだ兄とそっくりだった。


 友人の顔のパーツが、日ごとに薄れていく。


 カレンダーをめくったところ12月32日という日付が現れ、どれだけめくっても12月のままなので私には2021年が訪れないことを悟った。

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