第32話 一行怪談32

 彼女に「骨まで愛して」と言われたので、皮を剥いで肉を削ぎ内臓を取り出して骨を真っ白になるまで綺麗に洗ったが、骨だけの彼女を愛せる自信がないので、今から山に捨てに行く。


 そうか、君の顔になれば僕は愛されるのかと気づいたので、君の顔の皮を一気に剥ぐ。


 天井の隙間から垂れた長い髪に首を絞められながら、幼い娘はケラケラと笑う。


 息子が「パパ」と呼ぶものは、この子が生まれる前に死んだ私の夫の遺影ではなく、その後ろに写るぐちゃぐちゃに潰れた夫だった肉塊だ。


 毎夜、私の病室にやって来る髪の綺麗な女の人は、顔の部分が白くぼやけていてよく見えない。


 成人した甥は、寝ている時によく私の名前を呼ぶのでふざけて返事をしてみると、「やっと入れる」と低く笑う甥の口から出た黒い手が私の頭を掴んだ。


 姪の彼氏に見覚えがあると思ったが、あの時私が殺した別れた恋人の生まれ変わりだと気づいた時には、もう手遅れだった。


 息子はよくガリガリ様という架空の友だちと話しているが、息子の部屋を覗いた時に全身真っ青な大柄な男がガリガリと息子の鉛筆をかじっているのを見てしまった。


 何でも人のものを欲しがる友人が、恋人の冷蔵庫にあったプリンをこっそり食べて以来、友人がものを奪った人たちの顔を見ると絶叫し、ひどく怯えるようになった。


 この世界は本当に存在しているのか、それを確かめる方法を誰も知らないことを怖いと思う私は狂っているのだろうか?

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