第29話 一行怪談29

 姉が編んだ毛糸のマフラーには、姉と違う長さの髪が編み込まれている。


 妻の妊娠を弟が喜ぶ理由は、まだ食べたことがない胎児を味わえるからだ。


 トイレに籠もっている時にドアをノックされたものの、家にいるのは私一人だと気づき声を出すのをためらった直後、ドアを壊す勢いで激しくノックされ始めた。


 靴の中に何か小石が入ったのか違和感を感じたため脱ぐと、小指の第一関節部分が靴から転がり落ちた。


 祖父の畑から何やら悲鳴が聞こえたので駆けつけると、地面に飲み込まれる寸前の人間がこちらに必死に腕を伸ばしていたため、泥棒対策の土は食欲が旺盛で困ると、ため息をついて泥棒が地面に飲み込まれる様を眺めていた。


 風邪で寝込んでいる私の頭を冷たい手が撫でるも、まるで私を慈しむような手つきは死んだ祖母のようだと目を開けると、見知らぬ血塗れの女が私の頭を撫でていた。


 恋人の様子が変だと兄からメールが届いたものの、兄の恋人は一月前に事故で亡くなっており、そもそも兄は半年前に病気でこの世を去っているので、私はそのメールを消去した。


 フードを被った男が私の後をつけていることに気づき、私はほくそ笑んで鞄の中の鉈に手を伸ばした。


 娘の様子がおかしい、私が作った首輪を着けようとしなくなったので、今夜のおかずは錆びた釘用意せねば。


 家に帰った息子が「俺が間違っていた」と言い残し自分の部屋に籠もって出てこなくなったので不安に思って部屋に入ると、ベッドに横なった息子を包むように部屋のあちこちから生えた蔦が息子に絡みついていた。

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