第10話 一行怪談10
先月生まれた息子の寝顔が、一昨年亡くなった恩師の顔そっくりになるのはなぜだろう。
藍色の血を持つ弟と黄色の血を持つその妻の子どもの血の色は紫だったので、二人は今離婚協議中だ。
最近ジョギングを始めたのだが、私の後ろを黒のレインコートを着た人物が金槌を携えて走っている。
頭の薄くなった祖父のつむじから大きな目が覗いているのだが、それを本人伝えるべきかが家族の共通の悩みだ。
築百年は経つであろう実家の天井裏を掃除しようと上がってはみたものの、誰も上がったことがないはずの天井裏は埃も塵も一つもなかった。
夜中、我が家の食器棚の中で妻と私の湯のみが私たち夫婦に代わって互いを罵り合っている。
自宅の床から男の足が天井に向かって生えているが、日を追うごとにその数は増えていき今では床一面を埋め尽くしている。
我が家の壁に耳をつけると「知りたい?」と楽しそうに尋ねる声が聞こえたので、今では壁中にポスターを貼っている。
友人の家のテレビに映る人たちの視線は、全て友人に向けられている。
職場の窓からは、逆さまに宙に浮いた少年が泣きながらこちらを手招きしている。
姉の病室にはニヤニヤと笑う老婆がいて姉の死期を悟ったが、目の前に迫るトラックとその上にしがみついている老婆を見て全てを悟った。
行方不明になった兄の携帯に非通知の電話がかかってきたので出てみると、聞き覚えのない老人の声で「可哀想に」と笑われた。
写真の中の笑顔の私の口は、なぜか耳まで裂けている。
十年前に自殺した夫は今日も、あの時と同じように半透明の骸骨になって天井からぶら下がり続けている。
食べ物の好き嫌いが激しかった父は事故に遭って輸血されて以来、蜥蜴や蛙を捕まえて生きたまま食べるようになった。
祖母の愛用する鏡を覗いてみると、私の首から上が切断されたかのように映らなかった。
母は眠っている時にいつも、母の前世が犯してきたおぞましい罪をしゃがれた声で話す。
妹の婚約者をどこかで見たことがあると思っていたが、夢の中でいつも私を殺す男だと気づいた時には遅かった。
私の愛用する眼鏡は映る人全てが同じ魚の顔になるので、声色で聞き分けるしかない。
恋人の様子がおかしい、だってあんなに私の肉が美味しいと言っていたのに最近は私の親友を食べたいと言っているのだから。
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