第9話 一行怪談9
道行く人の声がみな、数年前に死んだ祖父の声に変わっている。
家の鍵が開かないので鍵穴を覗くと、こちらを見て笑う私と目が合った。
吐き気がひどいのでトイレに駆け込むと、食べた覚えがないぐちゃぐちゃの人の指がトイレの水に浮いた。
昼休みに立ち寄った定食屋のメニューに「小さいおじさんの唐揚げ定食」というものを見つけたが、頼むか悩む。
私が赤いマニキュアを塗ると家族の誰かが大怪我をし、青いマニキュアを塗ると友人の誰かが大病を患う。
友人に教わったおまじないを実行するたびに、友人の黒目が大きくなっていく。
「私が好きになった漫画のキャラはみんな死ぬの」と冗談めかして片想いの相手に伝えると、目の前で彼の首は真後ろを向いた。
突然彼女に別れを告げられ理由を尋ねると、「他に好きな人ができたの」と白目をむいて僕の後ろを見つめ恍惚とした表情を浮かべた。
幼い息子は私と二人きりになるとしゃがれた声で私の昔の罪を告白するので、そのたびに湧き上がる殺意を必死に抑え込んでいる。
痴呆の進んだ祖母が病室でよく見えない誰かと話しているようだが、どうもその相手は私が山に埋めた上司らしい。
長女は俺が昔捨てた女そっくりになり、次女は俺が川に突き落とした女そっくりなので俺は娘たちを愛せない。
俺はどうすれば、兄の後ろにいる血塗れの女の霊への想いを消すことができるのだろう。
私の鞄は真夜中ゴソゴソという物音を立てるが、翌日中を確認すると腐乱した猫の尻尾が数え切れないほど詰められていた。
「私の愛は不滅よ」と言ったクセに、手足を切り取られた程度で泣き喚く妻の愛はその程度かと呆れている。
妹は時々虚空を睨みつけて「あれが前世の私を殺した人」と言うが、宙にぽっかりと浮かぶ恨めしい目は妹の嘘を訴えている。
弟の恋人の頭が入る大きさの壺を、また新しく作らなくては。
姉が泣き叫び玄関の扉を指さしているが残念、正解は貴女の上にいるよ。
父の顔を女の手が覆っているので、今でも私は父の素顔を見たことがない。
母の右目は黒目だけ、左目は白目だがなんと美しいことか。
実家で飼っている犬は最近私に牙を向けるのでそろそろ潮時だなと、墓石を壊しながらぼんやりと考える。
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