第11話 一行怪談11

「進んでください」と後ろから急き立てられるも、一歩進んだその先崖下では大きく口を開けた鰐がこちらをじっと睨んでいる。


 首の折れ曲がった母が腹から臓物がはみ出ている父の前にコーヒーを置くのを、首だけになった僕はじっと見つめている。


 女の人の悲鳴が聞こえたため駆けつけるも誰もおらずふと隣の壁を見ると、影だけの男が影だけの女の人に馬乗りになって滅多刺しにしていた。


 姉が泣き叫びながら自分の体の一部を切り落とすのを見ることが、ここ最近の私の楽しみになっています。


 祖母の遺品のオルゴールをもらい早速聞いてみると、恨めしい祖母の声で私たち家族への呪詛の言葉がきらきら星をBGMに流れ続けていた。


 自宅の天井から髪の毛が垂れ下がっているが、カーテン代わりになるので放っている。


「行方不明の少女が保護」というニュースを聞き慌てて自宅に戻ると、怯えた様子の少女が相変わらず部屋の隅で縮こまっていたのでほっとした。


 嘘をついても針を飲みさえすればいいと思っている友人は、これまで何千本もの針を飲み込んでいる。


 実家に飾られている絵の中のほっそりとした女性の体は年々膨らんでいき今では風船のように丸くなってしまったが、しかめ面だった彼女は今ではすっかり笑顔だ。


 妹を傷つけない方がいい、妹が泣くと妹の影がナイフを携えて妹を傷つけた人間の舌を切り落とすから。


 玄関先に見知らぬ女がこちらに背を向けて立っており、玄関の向こうから見知らぬ男のの声で「今助けるから」と言われているがどうすればいいのやら。


 湯船に浸かろうとするといつも腐った赤子がぷかりと浮かんでいるので、湯船に湯を張れやしない。


 仕事からの帰り道に後ろから赤いハイヒールが私を必ず追い越すので、今ではそのハイヒールに追い着こうと競争になっている。


 買ってきたホットドッグにかぶりつくとどろりと血の味がしたので慌てて吐き出すと、潰れた蛙がソーセージの代わりに挟まれていた。


 学校へ行く途中にクビサガリ様を見てしまった弟は、千切れた自分の頭を両手で抱え部屋の中央に立ち続けている。


 見慣れぬビデオテープを見つけ面白半分に見てみると、若かりし祖父が笑顔で見知らぬ男の人の胴体を切断している映像だった。


 暗くなったテレビの画面に映る私の目の辺りはぽっかりと穴が空いており、慌てて鏡で確認すると今度は鼻の辺りに穴が空いていた。


 兄の足から植物の根が生え始めるとみるみるうちに兄の体に蔦が纏わり付き、今では一本の小さな木になってしまった。


 泣きじゃくる娘が顔を上げると、目も鼻も口もすっかり溶けてしまっていた。


 ある夫婦は子どもを殺して自殺したと霊能者は語るが、その後ろで血塗れの男女が「違う」と涙ながらに訴えている。

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