第7話 一行怪談7

 生まれてこの方、鏡の私と目が合わない。


 怪我をするたび、傷口からか細い悲鳴が聞こえる。


 「お前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいで」と呟きながら、兄は今日も動かなくなった母を殴り続けている。


 「大丈夫だよ」と言った妹が両目に鋏を突き刺したが、いつものことなので放っておく。


 聞こえない音を聞き続け発狂して自殺した男の胃の中から、様々な種類の動物の耳が大量に発見された。


 嫌がる弟の腕を引いて廃墟に肝試しに行ってから、弟は私のことを殺し損ねた恋人だと思い込み私にとどめを刺そうと、毎日私の部屋の前に立ち続けている。


 これが、姉の子宮に残されていた熊の胎児です。


 夫は今日も、ぬいぐるみを私だと思い込み、私を生まれたばかりの息子だと思い込んで接している。


 視界の端に黒い人影が見えても無視してください、オオシ様が自分の存在に気付いたと思いあなたの腸を取り出してしまいます。


 妻が味噌汁を作ると、器の底にいつも見知らぬ子どもが気味の悪い笑みを浮かべながら手招きする姿が映る。


 彼の瞳を覗き込むと、いつも彼の両親の首から上だけが映っていない。


 いつからだろう、彼女の話す言葉がすべて金切り声に聞こえるようになったのは。


 502号室の川崎さんはこの時間になると多くの人形を抱えて近所を散歩するのだが、ある日見知らぬ子どもたちが川崎さんのバラバラになった体を抱えて楽しそうに家から出ていくのを見た。


 人を小馬鹿にする癖がある同僚が自殺したが、私宛の遺書には「&%$#=~¥*+?」と書かれており、解読すると「俺の何が悪かった」と書かれていてつまらないのでごみ箱に捨てた。


 友人が嬉々として語る物語の登場人物は、友人には話していない私の親族たちの名前と全く同じで、彼らは友人の物語に登場した数日後に全員亡くなっている。


 母の友人が私にくれたお土産の狐のストラップは、夜になると私の部屋を駆け回り私の足の指をかみちぎらんばかりに噛んでから枕元に戻る。


 父は人を信じることを信条としていたがじゃあ人を疑わないと生きていけない私は父とは相容れない存在なのだと、胸を赤く染めた父の死体を眺めながら私はもう一度父の胸を刺した。


 祖母の手鏡には若かりし頃の祖母の姿と、年老いた私の姿しか映らない。


 祖父の愛用していたメガネをかけてみると、眼鏡越しに移る人々の顔がすべて黒く塗りつぶされている。


 子どもの見間違いとしてうやむやにされたが、蔵の中に閉じ込められていた子どもの背中に翼が生えていたことに気づいた時には、もう手遅れだった。

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