第5話 一行怪談5

 母の家庭菜園の野菜は全て、真夜中に金切り声を上げる。


 外国に旅行中の叔母からの最後の手紙には、笑顔の叔母と黒く焼け焦げた塊が並んだ写真が添えられていた。


 私が買うピスタチオの中身はいつも、魚の目玉にすり替わっている。


 10年前に失踪した妻から毎年、「お疲れ様です。早くこちらへ来ませんか?」という手紙と荒れ果てた井戸の写真が送られてくる。


 血まみれでぐったりしている夫と「早く逃げろ」と電話越しに叫ぶ夫の声と、私は一体どちらを信用すればよいのだろう。


 ボールの跳ねが悪いので申し訳なく思いながらボールを切り開くと、中には何かの動物の胎児がぎっしりと詰まっていた。


 息子が通う小学校にはクマの剥製があるが、その剥製が毎夜私の部屋を覗き込んでいるのを誰に相談すればよいのやら。


 娘の首筋をどれだけ切り裂いても出てくるのは真っ赤な血ではなく、紫色のぬるぬると動く触手のみだ。


 「本の虫」と称される甥の背中に、最近蠅の羽のようなものが生えていることに気でいたのは私だけだろうか。


 私を車で轢いた男が、毎夜私の病室で詫びとして首をつるのをどう止めたらいいのか分からない。


 姪の部屋から毎夜悲鳴が聞こえて我慢ならないと数日前姉夫婦から相談があったが、そもそも独身だった私の姉は5年前に病死している。


 ある日突然目が真っ赤になってしまった私だが、この目になってから生者と死者の見分けがついて便利なのだが、私の家族がすべて死者であったことが最近の悩みである。


 弟が腹部の痛みを訴えすぐさま病院を受診したが、そのレントゲン写真を見ると無数の御札が弟の胃にぎっしり詰まっていた。


 父の声が母の声に変わり母の声が妹の声に変わり妹の声が私の声に変わり、私の声は聞いたことのないしゃがれた老婆の声に変わった。


 あれだけ美しいと感動しすぐさま購入したサボテンが実は女の生首であったことに気付いたのは、自宅に持ち帰って数週間が経った時だ。


 ペットの猫が毎夜吐き出す毛玉の中に、小さな小指の先が混じっている。


 近所で何か大きな物音がしたので駆け寄ると、異様に頭の大きな女がその頭を近所の山田さんの玄関に何度も打ち付けている音だった。


 ヒールは便利だ、幽霊の喉元を刺すのにちょうどいい。


 恋焦がれた人物がこの世の者ではないことを知った兄が、その幽霊の依り代となる若い女性を次々と襲い逮捕された。


 祖父母の遺品のノートを読むと「みんなごめんなさい」という文言が書かれておりなんのことかと首を傾げると、後ろの仏壇の扉が開く音がした。

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