第4話
この期に及んでではあるが、俺はとりあえず転がってる死体を検分してみることにした。俺はプロの検視官でも何でもないし、そこで死んでるのは人間ですらない存在だからどこまでこちらの常識が通用するのかは分からないが、ともかく、脈はない、ということくらいは分かった。それから、胸の刺し傷はかなり深く、これが生き物で心臓の脈動を必要とするのであれば確かに死ぬだろう、という程度のことも。
「どうだ。何か分かったか」
「あまり収穫はないな」
下級邪神氏はまだこの執務室とやらの外側に張り付いている。多分、別に他所に行く用事もないというか、暇なんだろうと思う。
「女神が自殺した可能性は? 実はメンタルを患っていたり」
「仮にそのような事実があったとして、それを我が知ると思うてか」
「そうですよね……」
参った。情報がないのは本当にどうにもならない。それから、探すというほど探す場があるわけでもないが、犯行(?)に使われたと思しき刃物のようなものはどこからも見つからなかった。犯人が持ち去ったのかもしれないが、犯人像も犯行の手段も分からないのだからその可能性を検討してみてもどうにもなるまい。
「となると、犯行が可能な存在はやっぱりたった一人しかいない」
「誰だ」
「俺」
「ほう?」
そうなのだ。被害者と密室の中で一緒にいて、第一発見者であり、そして今も“密室”の中にいる。明らかに怪しいのは俺だ。といってももちろん、俺に犯行に関する記憶はない。だが。
「俺の記憶を消せたであろう存在の可能性も、たった一つしかない。女神本人だ。女神を殺したのはこの俺で、俺の記憶を消す干渉をしたのは女神自身。それしか考えようがない」
そのとき、俺は初めて気付いた。自分の着ている服がべっとりと返り血を浴びていて、自分が腰のベルトに長いナイフを差していたということに。
「やっと気付いたか。ちょっと時間がかかりすぎだったぞ」
「そうですよ」
邪神さんの脇から、また同じ顔をしたやつが現れた。これで同じ顔が三つになった。
「あんたは?」
「本物の女神の本当の転生体です」
「え?」
「そして我は、本当は邪神などではない、女神の眷属たる従者よ」
えーと。
「あなたのスキル適性を測るためのテストをしていたんですよ。思い出せましたか?」
思い出せない。
「まあ、テストは終わったということで……とりあえず、入れてくれませんか?」
俺は、どうするべきなのだろうか?
≪了≫
密室殺神 きょうじゅ @Fake_Proffesor
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