第3話

「よくぞ見破った。確かに我は、転生の女神の転生体などではない。この星辰界を彷徨う、一介の寄る辺なき邪神よ。口惜しや。その女神の執務室に我を招き入れておれば、汝の魂と血肉をすかさず喰ろうてやったものを」


 女神だったものは、女神の顔で喋っていることに変わりはないが、明らかに邪な存在であるとはっきり分かる表情を取るようになっていた。


「ふーん。邪神でも佞臣でも何でもいいけど、そこに転がっているその死体をやったのもお前なのか」

「いいや」


 ぬ? これで話が見えたかと思ったのに。


「我にそのような力はない。そなたが居るだけの亜空間にも入り得ぬ我が、まして女神の力の行使される場に闖入し、女神を屠り去るなど、できようものと思うてか?」

「それもそうだな。じゃ、犯人を知っているか?」

「知らぬ。我はただ、空き部屋になった“場”を察知して、ここに現れたまでのこと」

「空き部屋になっているというのは確かなのか?」

「それは、どういう意味だ」


 邪神とやらは怪訝な顔をした。


「ずっと最初からその可能性は考えてるんだけど、そこの死体が実は死んだふりをしているだけで、話の最後にむっくりと起き上がって“やーいやーい、騙されたー”みたいなことを言い出すんじゃないかと思って」

「そんなことはない筈だ。汝のいるその空間に、確かに神威は及んでおらぬ。今のところ」

「じゃあ、女神は確かに死んでいるんだな」

「ああ。いずれ本当に転生は果たそうが」

「いずれっていうと」

「転生女神は時を超越した神格。我や汝の主観で見た場合に、それが一年後になるか、それとも一万年後になるか、それは我には想像だに付かぬ事」

「そんな凄い神様が何でこんな風に亡骸おろくを晒して転がってることがあるんだ……つーか、邪神さん、あんたは転生女神からするとそんなに格下の存在なの?」

「あまり言いたくはないが、我は正直に言えば邪神と言っても下級神程度の存在であるに過ぎぬ」

「そうか」


 しかしそれにしても。


「俺、これからどうすればいいんだろう。女神が俺の主観時間で何年後だか何千年後だかに戻ってくるまで、ここでボケっと待ってなきゃならないのか? それって下手すると地獄の責め苦とかよりしんどくない?」

「それは我の知った事ではないが、魂の消滅を望むなら、我をその空間に招き入れるがいい」


 邪神は獰悪な表情を浮かべた。元が美女なだけに、不気味である。


「ちょっと保留にさせてくれ。それは最後の手段だと思う」

「だろうな。ならば、こういうのはどうだ。我と契約を結ばぬか」

「けいやく?」

「我と同化するのだ。さすれば汝もこの星辰界で自由に行動する事ができるようになる」

「その場合、俺の自我とか魂とかは?」

「温存することもできる。そのように契約すれば、だが。ま、要するに我が汝に憑依するようなもの、と思うてくれればよい」

「それもとりあえず考えさせて」

「そうか。まあよい」

「それより。ここに来られる、下級じゃない邪神とか悪神とかその他もろもろで、転生女神を殺せるような存在に思い当たらないか?」

「ここへ来て転生女神を討てる力を持った神格が存在しないわけではないが、そやつらは転生女神を討つような動機を持ってはおらぬな。邪神悪神の類では、力が及ばぬ」


 いよいよ八方塞がりだ。密室トリックってレベルじゃねーぞ。

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