第十六話 VS 遂理宗 感想戦②
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10:00 公明ドーム 西大会議室
「お主の使ったトリックをワシらに解説してくれんかのお。このままでは気になって夜も眠れそうにないわい」
アゴウの提案を受け僕は遂理宗戦で使ったトリックを思い返す。
アゴウは僕のトリックに対し全く核心に触れることができなかったというが、推理の大半はあっていたのだ。
足りなかったのは最後の一ピースだけ。
「では僕の使ったトリックを説明しましょう」
記憶を思い起こしながら僕は自身の使った“誤認トリック”の説明を始める。
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(ゲーム中 回想) 20:00 ????(??) サイク視点
僕の二回目の犯行時刻がやってきた。
一度目の犯行時刻ですでに俳優には【キーアイテム】ラブレターを渡し終えている。
今頃は自室にて僕が訪れるのを待っているはずだ。
僕がこの二回目の犯行時刻で設定した時間は10分のみ。
その間に準備を完成させなければならない。
僕は急いで準備を開始する。
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名称:高級ワイン 必要HP:50
解説:時価数百万のワイン。贈答用に 。
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名称:注射器 必要HP:50
効果:液体や気体を針先から注入するのに使用
解説:ガラス製。凶器として使用するには耐久性に難あり。
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名称:睡眠薬 必要HP:150
効果:服用した対象を睡眠状態にする
解説:水に完全に溶け、無味無臭
服用した者は犯行時刻の間、絶対に目を覚まさないのであります!
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自室の机の上には僕が交換したアイテムが置かれている。
ワインボトルに、注射器、そして睡眠薬。
注射器に入れた睡眠薬をコルク部分からワインボトルへと注入する。
この睡眠薬は無味無臭のもので味覚で気づかれる心配は無い。
そして効果は摂取した者を一時間強制昏睡させる強力なものだ。
完成した睡眠薬入りワインを手に取り部屋を出る。
向かうのは俳優の待つ客室だ。
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(ゲーム中 回想) 20:03 1F客室(俳優) サイク視点
――コンコン
「こんばんわ」
「ああ、ちょっと待って。今開けるよ」
扉の向こう側から聞こえる俳優の声。
――ガチャッ
「ああ君かい。待ってたよ。……うん? それは僕への差し入れかな」
ラブレターの効果により自室で待機をしていた俳優は、僕がノックをするとすぐに姿を見せた。
笑みを浮かべ僕を出迎えた俳優だったが、僕の手にしていたワインボトルを認めると目の色が変わる。
「まさか、それは、ロマネ・コンティかい!? これ飲んでいいの!? いやあ、ありがとう。こんな高価な物、最高のプレゼントだよ! じゃあ、さっそく上がっていって」
高級品志向を持つ俳優のことだ、ワインに食いつくのは想定済み。
睡眠薬入りのこのワインを俳優に飲ませることで無力化する。
それがこの二回目の犯行時刻の目的だ。
俳優は上機嫌に僕を部屋へと誘ってくるがここで誘いに乗ってしまうとアリバイに空白ができてしまう。
5分、10分ならまだしもここであまり長い時間をとられるわけにはいかないのだ。
「ごめんなさい、俳優様。私、まだこのあとに用事がありますの。私はまた後でうかがいますが、少々お待ちいただけませんか?」
「へ? そうなのかい。まあ、待つのは構わないけど……」
「ワインは先に頂いてもらっても構いませんわ。ただ、俳優様が酔ってしまって私が部屋に入れないのでは困ってしまいますので、扉の鍵は開けておいてもらえると嬉しのです」
「先に飲んじゃってていいの! 悪いね。わかった。扉の鍵は開けておくよ。じゃあ、楽しみに待ってるから。またね!」
俳優は僕の言葉を聞くとよほどワインを口にするのが待ちきれないのか、挨拶も早々にすぐに部屋へと引っ込んでいった。
もう少し粘られると面倒だと考えていたが、これなら計画がうまくいく。
僕は見落としが無いか手順を脳内で再確認した後、アリバイ作りのために他の人物が待つ場所へと移動する。
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(ゲーム中 回想) 21:00 1F客室(俳優) サイク視点
――コンコン
扉をノックするが、今度は中から俳優の声は聞こえない。
「お邪魔しますわ」
念のため辺りを確認し僕は俳優の客室へと入る。
中にはソファに腰かけ机に突っ伏す俳優の姿があった。
机には開けっ放しのワインボトルと飲みかけのグラスが置かれている。
僕はワインボトルとグラスを回収すると冷蔵庫へとしまう。
ワインボトルが机に置かれていれば毒が入っていないか疑われてしまう。
トリックの一部分でも対戦相手に透けるのは避けたい。
赤ワインは冷やさない方がおいしいとも聞くが別段冷蔵庫に保存し不自然ということは無いだろう。
僕は背負うリュックサックを地面へと降ろす。
中に入っているのはHPで交換したアイテムだ。
その中から僕は【キーアイテム】軍手と【凶器】であるとあるアイテムを取り出した。
軍手を装着し作業を開始する。
体に触れて俳優の様子を確認するが起きる様子はない。
睡眠薬はしっかりと効いているようだ。
そのまま僕は【凶器】を俳優へと巻き付ける。
「よいしょ、っと。だめだ、動かないぞ」
俳優の体を引きずり窓際へと運ぼうとするがなかなかうまくいかない。
このアバターが女性体であり、筋量が少ないからだ。
恨めしくこの細腕をにらんでも犯行は動き出しているのだ。今更アバターの変更はできない。
それでも何とか死体を引きずり窓際へと運ぶと窓を少しだけ開く。
その隙間から【凶器】を外へと出せばこの部屋での犯行は完了だ。
窓際で未だ眠り続ける俳優の姿を確認する。
僕は事前にこの館の倉庫から入手しておいたノコギリをリュックサックから取り出すと、血のりを振りかける。
この血のりは
さすが俳優といったところだろう。
さらに僕はノコギリに使用した形跡を作るため部屋のいくつかの箇所でノコギリを壁に向けふるう。
僕のアバターの力では深い傷をつけることはできないが目的は果たせる。
最後に僕は部屋を一瞥し、見落としが無いことを確認するとその場をあとにする。
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10:06 公明ドーム 西大会議室
「うぬぬ? 俳優はその場で殺したのではないのか?」
「いや。あの時点では俳優は生きていた。ただし睡眠薬の効果で殺害時まで昏睡状態にあったはずだがな」
種明かしの終盤。
これまで黙って僕の話を聞いていたアゴウが疑問を挟む。
「では、どうやって死体は解体されたのじゃ? 21時以降となるとコックを除きアリバイの空白があるのは館の主と社長のみ。それも社長がトイレに行っていた5分程度じゃ。5分で殺人を完了し死体を解体するなど、いったいどんなトリックを使ったんじゃ?」
「ああ。実は死体の解体に長い時間は必要なかったんだ。とある【凶器】と、
「とある凶器じゃと。凶器は現場に落ちていたノコギリではなかったのじゃな」
「ああ。それが今回僕の仕掛けたトリック。“凶器の誤認トリック”だ」
僕は最後の締めくくりと思い、力強く言い切る。
アゴウ、ウンサイが僕の言葉に思考を巡らせる中、僕はトリックの全容の説明を始めた。
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